(榎並 利博:行政システム株式会社 行政システム総研 顧問、蓼科情報株式会社 管理部 主任研究員)
ある会合で社会保険労務士さんから聞いた話である。
たまたま自治体の窓口で、担当者が高齢者にマイナンバーカードを交付する場面に遭遇した。その時、職員が電子証明書は使いませんよねと言って、電子証明書を格納せずに渡していた。思わず、「これじゃ健康保険証として使えないじゃない」と心の中で叫んだという。
この話を知り合いにしたところ、自治体では高齢者に「(住民票などの)コンビニ交付でマイナンバーカードを使いますか」と尋ね、「使わない」と答えた人には電子証明書を格納せずにマイナンバーカードを交付しているケースがあるという。
マイナンバーカードを使ったサービスにおいては、一部チップの空き領域を使ったサービスも実施されているが、ほとんどのケースではチップに格納された電子証明書を使っている。つまり、電子証明書をマイナンバーカードに格納しないということは、マイナンバーカードを使ったサービスが使えないことになってしまう。
マイナンバーと電子証明書の関係について、自治体職員も含めほとんどの人が理解していないだろう。個人を特定してサービスを提供するためには、「氏名」ではなく「番号」が必須となる(※)。
※同姓同名の問題だけでなく、氏名漢字のコード化が不完全であることが理由。以下、参考記事:「わたなべ」の漢字の多さで如実にわかる、デジタル化を阻む文字コード問題
普通の人は、マイナンバーカードを使うのだから当然マイナンバーという番号を使うものだろうと理解している。
しかし、マイナンバーの利用は強い法規制を受け、税・社会保障以外の様々なサービスには利用できない。とはいえ、政府としてはマイナンバーカードを普及させるため、様々なサービスに利用してほしい。そこで方便として思いついたのが、電子証明書に記載されているシリアル番号を使うという発想だ。
つまり、電子証明書を格納せずにマイナンバーカードを交付するということは、電子証明書に記載されているシリアル番号を利用したサービスを使えないということになる。シリアル番号は、健康保険証のほかコンビニ交付、マイナポータルへのアクセス、図書館利用カード、自治体マイナポイントなどで使われている。
混乱のもとは、番号と電子証明書の本来の使い方を歪めてしまったからだ。