背後にある詐欺組織

 こうした事件の背後には、中国をはじめとする様々な国籍の人物からなる詐欺組織があるとされる。

 特に中国人による犯罪の温床と呼ばれているのが南部のシアヌークビルだ。

 カンボジア総合研究所の鈴木博チーフエコノミストはこう説明する。

「一時は“第二のマカオ”などと言われたシアヌークビルだが、オンラインカジノの禁止、新型コロナによる観光客激減、不動産バブル危機などの影響を受けて、滞在する中国人の数は最盛期の約20万人から大幅に減少した。稼ぎを失った中国系の犯罪集団は、人身売買や強制労働による国際的特殊詐欺に手を染めていると言われている」

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 アジア太平洋地域の外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」によると、カンボジア警察が発表した19年1~3月の外国人が関わる犯罪件数341件のうち、241件が中国人によるものだった。さらに同誌は、「22年の初め頃から、中国人による人身売買や監禁、強制労働の被害が相次いで報告されるようになった」と指摘している。

 地元紙を引用すると、ある中国人の被害者は、「監禁状態で12~16時間、SNSやデートアプリで詐欺の獲物を探さなければならなかった」と説明。現場にはベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、中国、台湾、香港、バングラデシュ、インドといった国籍の被害者がいたと証言している。

 カンボジアで強制労働を強いられたベトナム人の被害者は、22年9月までに1000人以上が救出された。同年8月には、インドネシア人の被害者約200人が救出され、専用のチャーター便で母国に帰国したという。救出されなかった外国人も多く、実際はこの数字を上回る被害があるとされる。

 現地の犯罪組織のメンバーはAFP通信の取材に対し、「監禁施設は鉄格子と有刺鉄線で覆われ、容易に逃げ出すことはできない」と説明。「逆らった者は殴られるなどの暴力行為や拷問を受け、他の犯罪組織に売られることもある」と話しており、被害者は身体的、精神的に追い詰められ、逃げ出せないように厳重な監視下に置かれていることが分かっている。

当局の捜査に疑問の声

 こうした事態を受けて、カンボジア政府はホットラインを設置するなどの対策を講じ、これまで多くの被害者を救出したとして成果を強調しているが、現地では当局の捜査や取り締まりが適切に行われていないとの指摘も出ている。

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