(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)
ある事件は時間が経ってから振り返ってみると、その意味が明瞭になることがある。満州事変(1931年)や2.26事件(1937年)は、それが起きた当時は中国の片田舎での軍事衝突や軍内部の抗争と思われていたが、時間が経ってみると、あれはその後の大戦争の導火線であったことが分かる。
2023年1月半ばにベトナムでグエン・スアン・フック国家主席が突然退任したことも、そのような視点で考えるべき事象であろう。
中国との関係を深める軍事政権
習近平が政権の座についた2012年頃から、東南アジアでは予想できなかったことが起きるようになった。
第1には2014年に起きたタイでの軍事クーデターである。タイは開発途上国の中の優等生で民主主義が定着した国と考えられていたが、軍部によるクーデターが起こり、それ以降、紆余曲折はありながらも軍が政治に強い影響力を及ぼす状況が続いている。