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ゼレンスキー大統領は汚職対策を公約に掲げて当選した(2019年ウクライナ大統領選挙 決選投票、写真:AP/アフロ)

(文:石川雄介)

ティモシェンコ大統領府長官の解任を始め、ゼレンスキー政権は1月下旬から大規模な綱紀粛正に乗り出している。依然として深刻な汚職レベルにあるものの、その対策が「摘発」という段階に進めば、EU加盟など将来の国家再建に向けても重要な一歩が刻まれる。

 1月31日、トランスペアレンシー・インターナショナルは、各国の公的機関がどれくらい腐敗していると専門家に認識されているかを示す指標である「腐敗認識指数」(Corruption Perceptions Index)の最新結果を公表した。

 2022年のウクライナの点数は100点中33点(スコアが高いほど汚職が少ないことを意味する)。インドネシアやボスニア・ヘルツェゴビナ(34点)に次ぎ、フィリピンと同じ数値となった。

 10年前の2012年のウクライナは同指標では26点/100点であり、ロシア(28点:2022年の数値も28点)よりも汚職が深刻であったことを踏まえると、一定の改善は成し遂げたといえる。2014年ごろから改善傾向は続いており、戦争下でもスコアを落とすことはなかった。

 実際、前述のトランスペアレンシー・インターナショナルは、最新版の汚職認識指数についての分析レポートにおいて、「戦時下のウクライナは、重要な改善を見せた数少ない国の一つである」と比較的高い評価を下している。

 この傾向は他の指標でも現れており、各国の腐敗の度合いを公共セクター、行政、体制(政治家)、司法の4領域に分けて測定しているV-Demの指標において、ウクライナはそれぞれの領域で改善傾向を示している。

 ウクライナにおける汚職の深刻さはしばしば指摘されるところであり、欧州国家の中で最も汚職が深刻な国家の一つであることは間違いないものの、ウクライナで汚職対策が徐々に進んでいることもまた事実である。いったい何がウクライナの腐敗退治を推し進めているのであろうか。

 ウクライナの2010年代からの改革を概観すると、2014年のクリミア併合以後、安全保障上のリスクが顕在化したことにより、透明性の確保といった広い意味での汚職対策から汚職取締機関の設立まで腐敗撲滅に向けた取り組みが少しずつ進んだことが見えてくる。ゼレンスキー政権の発足やウクライナ戦争の勃発はこの流れをさらに加速させた。同時にこのことは、今年G7の議長国を務める日本にとって、ウクライナのさらなる汚職削減の支援を議論する必要性も示している。

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