(文:名越健郎)
12月に次回大統領選の公示、9月に統一地方選を控えるプーチン大統領は、8月までに一定の戦果を誇示する必要がある。目下の焦点である「春季攻勢」は、南部を現状維持として、東部ドンバス地方の完全制圧を目指す公算が大きい。一方、米独の主力戦車やHIMARSを超えるミサイルシステムの導入でもウクライナが状況を打開できなかった場合、米国内の政治交渉論が力を持つ可能性がある。
2月24日で満1年になるロシア軍のウクライナ侵攻は、双方に決め手がなく、長期化の様相を呈している。ロシア軍は春季攻勢に着手しつつあり、特に東部ドンバス地方の完全制圧を目指す構えのようだ。
一方、ウクライナ側は、ドイツ製「レオパルト2」などの主力戦車が到着する4月以降、失地回復を狙った大規模な反攻作戦に出る模様だ。春から夏にかけての戦況が重大局面となる。
来年3月17日に予定されるロシア大統領選も注目点で、秋以降のロシアは政治の季節に入る。夏までの展開が戦争の行方を左右しそうだ。
長期化はロシアに有利
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領とウラジーミル・プーチン大統領の新年ビデオ演説は、ゼレンスキー大統領が「今年の勝利」を訴えたのに対し、プーチン大統領は「長期戦」を示唆している印象を与えた。
ゼレンスキー大統領は17分間の動画で、「私たちは戦うし、これからも戦い続ける。最も重要な『勝利』のために」と述べ、今年を「兵士が家族の元へ、捕虜が自宅へ、難民が自国へ、占領地がウクライナへ、生活が元の日常へと戻る『帰還の年』にする」よう訴えた。
プーチン大統領は「軍人」をバックにした9分間の演説で、ウクライナ東・南部4州の併合を正当化し、「ただ前進し、家族や祖国のために戦って勝利する」と述べたが、今年の目標は示さなかった。
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