(英エコノミスト誌 2022年12月3日号)
有意義な仕事をする能力があることを、当人も批判者も思い出すべきだ。
「そんなもの捨ててしまえ!」
繊細な息子エドセルがT型フォードをモデルチェンジしたいと考え、勇気を振り絞って父ヘンリー・フォードに提案書を見せた時に浴びた言葉だ。
時は1924年、ゼネラル・モーターズ(GM)が繰り出す当世風の乗用車にエドセルは脅威を感じていた。
言うまでもなく、GMはそれから世界最大の自動車メーカーに登りつめ、やがて極度の不振に陥った。
より優れた車を作る方法を学ぼうと、大金をつぎ込んで新会社「サターン」を立ち上げ、カリフォルニア州フリーモントの工場でトヨタ自動車との合弁事業に乗り出した。
惰性を克服しようとする試みは、いずれも失敗に終わった。
しかし今、米国のみならず世界中の自動車メーカーが自動車の本質そのものを転換したいと考えている。
これについては、フリーモントの遊休施設を二束三文で買い取り、そこで電気自動車を作り始めた企業によるところが大きい。
大勢の空売り投資家が失望したことに、米テスラは大成功を収めた。
米国自動車業界でスタートアップ企業が成功するのは、1925年創業のクライスラー以来だ。
自動車・宇宙産業を塗り替えた起業家
内燃機関に夢中だった米国の自動車メーカーの幹部たちは――エンジンの音や匂いについて語る時には詩の領域にさえ近づいた――かつては電気自動車を小ばかにしていた。
彼らがこの技術に進出し、作り出した製品は凡庸で、それこそ電気自動車を購入する環境保護論者たちをがっかりさせたいのかと邪推してしまうほどだった。
華やかで魅惑的な電気自動車を作ることも可能であることを実証して業界を変えてみせたのがイーロン・マスク氏だった。
ちょうど同じ頃、マスク氏はもう一つ、よろめいていた産業を再生させていた。
電気自動車の場合と同様に、米スペースXが成功するかもしれないと考えた専門家もほとんどいなかった。
再利用可能なロケットは費用をかなり安くできる選択肢ではあったものの、そんなものに人工衛星を託す人がいるはずないと嘲笑された。