写真はイメージです(出所:ぱくたそ)

(河崎 環:コラムニスト)

丸の内で世紀の土下座を見せた大和田常務は、六本木では土下座未遂

 ドラマ「半沢直樹」で語り草となった、大和田常務、いや俳優・香川照之の世紀の土下座。憤怒を剥き出しにした表情で、怒りと抵抗感に手足を震えさせながら、恥と悔しさを叩きつけるがごとく床の上で身体を丸めてみせた、あれは確かにドラマ史に残る名演技だった。

 取締役会なる“御前会議”で行う土下座というものが、いかに昭和平成のビジネスマンにとって尊厳と引き換えレベルの重大事であるか、そして会社組織のヒエラルキーがいかに揺るがしがたく絶対であるか、前提となる価値観が日本社会で共有されていたからこそ、あの土下座はドラマティックになったといえる。

 あの東京中央銀行本店(作者・池井戸潤氏が小説のモデルにしたのが東京三菱UFJであるという説をとるならば、あの取締役会が行われた本店会議室は丸の内のはず)で土下座を見せて名優との評価を恣(ほしいまま)にした香川照之。だが彼はこの夏、酒癖の悪さによる強烈な性加害とパワハラの数々を糾弾されて有名企業CMや情報番組レギュラーを追われ、話題のドラマ「六本木クラス」では原作上、最終回で土下座するはずのシーンで土下座を「させてもらえなかった」。

 このことには、「仕事をする男の土下座」の意味の変質、時代の流れを感じるのである。