筆者の義父が入居した再開発マンション

(立花 志音:在韓ライター)

 3年ほど前のある日、義父が、自分が住んでいる地域に建つ市内の廃屋とも呼べそうな平屋を買うと言い出した。

 皆がピンときた。あぁ再開発だなと。その一角は主人が子供の頃から変わり映えのしない街で、ほとんどが2階建て以下の古い建物だった。

 義父は平屋住宅を1億500万ウォン、約1000万円で購入した。その時は既にマンション建設の話は決まっていた。なんと、そんな運のいいことがこの世にあるのか。この韓国で、自分の持っている土地が再開発されるほどのタナボタはない。

 お金のある人はみんなそれを狙っている。前の持ち主はなぜ、お金を生む土地をあえて売ったのか聞いたら、その土地には質権がついていて、持ち主は借金返済のために、どちらにせよ手放さなければならなかったという話だった。

 しばらくしてその土地は1億3400万ウォンで、ディベロッパーに買い上げられた。

 組合員と呼ばれるいわゆる「地主」たちには、仮住まい費用として9000万ウォンが無利子で貸与された。韓国では「チョンセ」と呼ばれる保証金のみで家を借りる制度がある。2年ほどの仮住まいならば十分にできる金額だ。

 住んでいる家がある義父にはそのお金は必要のないお金だった。その時、ちょうどコロナ騒動で韓国の株価が大暴落したので、半分以上のお金を株に回した。

 1年も経たないうちに、その株は倍以上になった。しかし、調子に乗った義父は義母の大反対にもかかわらず、残金も株につぎ込んだ。筆者が知った時は後の祭りで、入居直前には結局プラマイゼロになっていたようだ。

 その頃、義母は義父に対する不満が重なっていたようで、口げんかが絶えなかった。新居購入あるあるであり、人の話を聞かない韓国人のあるあるでもある。

 実際に今年の5月に暗号資産が暴落した時には、韓国ネットは大騒ぎだった。

 いまだに印象的なのは、韓国のとある漫画家がSNSで「うわー!株とコインが暴落してるけどみんな大丈夫?自分はグランザー(現代自動車の高級セダン)のフルオプション1台分(およそ400万円)を失ったけど皆さんは?」という呼びかけに、「ポルシェマカン」「グランザー5台」「ローバーミニ」「ポルシェカイエン」等の声が飛び交った。中にはかつてのスーパーカー「ブガッティヴェイロン」という書き込みも実際に見た。

 そしてなんと、「ベンツマイバッハ」なんていうのもあった。現在販売終了されているこの車は、最低5000万円でモデルによっては億を超える。「ベンツマイバッハ」分の損失を被った人のコメント欄には、「レバレッジかけてやってたのに……。どうしよう」と書かれており、友人たちが心配するコメントも下に続いていた。

 マンション開発に、株に、仮想通貨にと一獲千金を夢見る韓国人たちの人生は、常にジェットコースター状態である。

 それにしても、たとえる車がほとんど外車だというのは、外車に強いあこがれを持つ韓国人ならではだろう。今や国内販売よりも輸出によって莫大な利益を上げ、大韓民国が世界に誇れる現代自動車だが、そこにお得意の愛国心は働かないのかとツッコミを入れたくなる。