ビル・クリントン政権やオバマ政権は医療保険制度改革を大統領選挙の重要な争点に掲げたが、政権を取り法案作成の段階に移ろうとすると、決まったように「他人の病気になぜ金を出す必要があるのか」「無駄と無責任のツケを真面目な納税者に回すものだ」といったような反対者の声が大きくなってくる。
ちなみに、オバマ大統領の主導で進められた、低所得者に対する医療保険の購入補助と、個人の加入を義務付けた医療保険制度改革法が2010年3月成立した。しかし、同11月の中間選挙で民主党は惨敗し、本年1月には早くも下院で同法の廃止法案が245(民主党議員3人を含む):189の大差で可決した。
こうした延長線上に国家の自己責任論がある。島田洋一教授は「崩壊か、再生か・・・日米同盟の行方」(「正論」2011年2月号、以下の引用は同誌)で、「アメリカでは現在、自由と自己責任を重視する勢力の台頭」が見られるとし、その淵源がティーパーティー(茶会)にあることを述べている。
同盟の基盤も「自己責任」
ティーパーティーの特徴は、社会の構成員に「自己責任」と「自助努力」を求め、安易な「救済」に強く反対する点にあるという。
1773年のボストン・ティーパーティーは、東インド会社(英国)の紅茶大幅値上げに抵抗してアメリカの起業家が率いる草の根会派「自由の息子たち」が英国商船の茶箱を港に投げ捨て、アメリカ独立への一里塚をなした記念塔であるとし、この種ティーパーティーが大きな政府を目指すのではないかと見られるオバマ政権発足直後から全米各地で盛り上がって、中間選挙における野党共和党の大勝につながったとしている。
代表的保守派の1人であるジョン・ボルトン元国連大使は「米国の主権を損ないかねない事柄についてはもちろん、国際機関にもっと権力を委ねるべきだという発想は、(ティーパーティー支持者には)運動全体を通じて露ほども見られない」と言っている。
また、共和党の代表的ティーパーティー候補であるランド・ポール上院議員は「我々は、国連の下ではなく、合衆国最高司令官の下でのみ戦う」と断言する。著者は「これは極左を除くアメリカの政治家において、むしろ一般的な主張である」と総括している。
日米同盟についても日本の自己責任論が公然と語られるようになっているという。国防総省の元日本部長であったジェームス・アワー氏はある日本人学者の質問に「領土維持の決意をはっきり示すには、領土防衛のために血を流す覚悟がなければならない」、また「南シナ海で日本は米国以上の利益を有している。それゆえ、日本は南シナ海での偵察活動に進んで参加すべきだ」とも言う。
そして「同盟国が自ら何もしなければ、米国がその同盟国の防衛に出動することは難しい」と釘を刺す。
こうした当たり前の「自己責任」を放棄しておきながら、米国に「日本防衛」を質す日本人とはどういう人種かという思いを相手に抱かせ、同盟関係に疑心を募らせることは確かであろう。
米国はお人好しで日本の防衛をしてくれるのではない。どこまでも国益追求の手段としての同盟である。
日本には、日本の防衛だけでなく米国の戦略に適うアジア・太平洋の安定に寄与すべく、基地や後方支援施設なども提供しており、それで十分過ぎる貢献ではないかという意見もある。
