神奈川県座間市が取り組む困窮者支援「座間モデル」が注目を集めている。それは、自治体が支援団体とつながり、生活保護利用者だけではなく、その手前にいる困窮者のサポートもおこなうという取り組みだ。日本全体が貧困化する中、生活に困窮する単身高齢者やひとり親、ひきこもりや障がいのある家族を抱える高齢世帯などを支える社会の仕組みが求められている。「座間モデル」は、その一つの解答と言える。
なぜ、座間市はこうした画期的な支援を実現できるのか。なぜ、座間市は地域を巻き込んだ新しい仕組みを作ることができたのか──。その疑問をひもとけば、一人の職員の奮闘に行き着く。ジャーナリスト・篠原匡氏の著書『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』より、福祉業界の猛者を動かしたある男の奮闘の「後編」を紹介する。(敬称略)
*前編「困窮者支援事業をゼロからつくり上げた座間市役所のスタートアップ感がすごい」から読む
「失業して税金が払えません」と税金の収納・管理を担当する収納課に住民が来るのは珍しいことではない。ただ、収納課ができることと言えば、税金の分納を勧めるか、ハローワークを紹介するぐらいである。その住民がどうなったのかはもちろん気になるが、収納課としてできることはほとんどないのが現実だ。
こうした住民を自立サポート担当につなげば、就労支援など適切な手を打ってもらうことが可能になる。
もっとも、役所内の協力関係は一朝一夕に生まれたわけでなく、小さな成功体験を積み重ねた結果だ。
ある時、収納課に税金が払えないと住民が相談に来た。「職に就いていない」と気づいた窓口の担当者が自立サポート担当につないだところ、その住民は無事、就労を果たした。その後、林が収納課の担当者に会うと、思いがけず感謝された。仕事を見つけた住民が収納課に御礼を言いに来て、それがとてもうれしかったのだという。
その話を聞いた林は市役所の各部署に呼びかけた。
「対応に困るような相談があれば、まず自立サポート担当につないでください」
市役所の窓口には、さまざまな事情を抱えた住民がやって来て、とりとめのない話を始めることがある。忙しい職員にとっては、ある意味で面倒くさい存在だ。そういう住民に対処してくれるのであれば、他の部署にとっても悪い話ではない。
体制構築のためにしたもう一つのことは、既に述べた役所外での連携である。
「アイテムがない」と大島が嘆いたように、役所の中には、相談に訪れる困窮者に対応できるだけの具体的な支援策が十分に揃っているわけではない。それを補うために、視線を役所の外に向けたのだ。
外部連携では相談者とのやり取りも大きなヒントになっている。
林が自立サポート担当になって半年ほど経ったある日、一人の困窮者が相談に来た。その時は状況を聞くだけで、効果的な支援ができたわけではなかった。ところが、後日、その相談者が「仕事を見つけた」とわざわざ報告に来た。聞けば、日払いの仕事を提供する会社だった。
「そんな会社があるのなら、就労先として、他の相談者にも紹介できるかもしれない」
そう思った林は、実際に会社を訪問し、協力を仰いだ。そして、同じような連携先を開拓するため、協力関係を築けそうなNPOや事務所を探しては訪問することを繰り返した。その過程で、ワンエイドやユニバーサル就労支援、ワーカーズ・コレクティブ協会など、チーム座間の核となる人々とつながっていったのだ。
訪問を受けた側も、従来の役人とは違う匂いを林に感じていた。
【篠原匡氏と蛙企画の関連書籍】
◎『TALKING TO THE DEAD イタコのいる風景』(https://kawazumedia.base.shop/items/61011308)
◎『House of Desires ある遊廓の記憶』(https://kawazumedia.base.shop/items/44509401)
◎TRUE STORIES 蛙プロジェクトの「Art, Journalism & Social engagement」(https://kawazuprojects.peatix.