ロシアのメドベージェフ大統領が就任してからおよそ1年がたった。

 メドベージェフ大統領の背後には常にプーチンの影が見え隠れする。結局はプーチンの院政なのではないかとささやかれてきたが、その疑問に対する答えはまだない。プーチンとメドベージェフの間で、どのようなパワーバランスが保たれているのかは、うかがい知れない。

 これだけははっきり言えそうだ。プーチンは原油価格の高騰という後押しによって大国を復活させ、ナショナリズムに基づいた「主権民主主義」を確立しようとした。しかし、そのモデルは明らかに限界に突き当たっている。致命的な打撃を与えたのは世界金融危機である。

 問題は、現在の体制で未曾有の経済危機を乗り切れるのかということだ。私は「二頭体制」には、大きな不安要因が潜んでいる気がしてならない。

経済の落ち込みはロシア社会に深刻な影響をもたらす

 ロシア経済の特徴は、国外の市場に大きく依存していることだ。その意味で経済的な「主権」はほとんどないと言ってよい。

 今、全世界が経済危機に見舞われているが、影響の度合いや内容はもちろん国によって違う。先進国を見ても国ごとに違うし、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中でも状況は異なる。

 中国、インドの場合は成長スピードは鈍ったとは言うものの、中国は8%の成長を見込んでいるし、インドもプラス成長を維持できそうだ。

 一方、ブラジル、ロシアは経済成長率が急激に低下し、マイナス成長に陥った。ロシアの状況として付け加えなければならないのは、経済情勢がただ厳しいだけではなく、経済の落ち込みが社会と政治にどのような変化をもたらすかが、まったく不透明であるという点だ。

原油価格の下落で、一転して赤字予算に

 ロシアの2009年度予算は2008年11月に策定されたが、予算策定のベースとなったのは原油価格だった。当時の想定価格は「1バレル=95ドル」。これに基づいて、歳入は10.9兆ルーブル、歳出は9.2兆ルーブルという予算が組まれた。しかしその後、原油価格は40ドル前後に暴落して、楽観的な黒字予算は吹き飛んでしまった。

 現在、再び作成されている予算では、税収等の歳入が当初よりも42%減少した。前年と比べると31.5%のマイナスである。歳出が9.3兆ルーブルに対して、歳入は6.3兆ルーブル。歳入は歳出の約7割しか賄えない。

 赤字額の対GDP比率は7.5%に上る。日本の場合、赤字国債の額で言うと対GDP比率は5%台である。米国の予算赤字の対GDP比率は12.7%なので、それと比べたらロシアの方がまだいい。ところがロシア財務省の筋によると、原油価格が1バレル当たり30ドルになると、赤字の対GDP比率は9.5%まで膨らむ公算が大きいという。

 ロシア政府は歳出入のギャップを埋めるために、予備基金等から2.7兆ルーブルの資金を捻出するなどして、2008年度並みの歳入を維持するとしている。しかし原油価格が高価だった時代に蓄えた貯金は、時間の経過につれて少なくなる一方である。

 2008年8月にロシアの外貨準備高は6000億ドルに達し、世界3位となった。だが、今年2月時点では3860億ドルにまで縮小し、40%の減少を見せている。グルジアとの戦争と世界経済危機によって外国資本が逃避し、それに伴うルーブルの暴落を阻止するために、ロシア中央銀行がドルを売りに出したことも大きかった。

 グルジア戦争だけでなく、戦争に伴う経済危機は、外国資本の逃避をさらに加速させた。これはロシアにとってまさにダブルパンチだった。