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ウクライナへの重火器供与を強く訴えた、ドイツ緑の党のアントン・ホーフライター議員(写真:ロイター/アフロ)

(文:熊谷徹)

連立与党でウクライナへの重火器供与を最も強く求めたのは、軍備増強に反対してきた「緑の党」だ。大転換の背景には、プーチンが「力」や「軍事的な強さ」だけを理解する指導者だと党内左派が強く意識するに至った経緯がある。

 今年4月20日、ドイツ連邦議会で緑の党のアントン・ホーフライター議員が演説した。肩まで届く長髪にあごひげをたくわえ、議員らしからぬ風貌。堂々たる体躯のホーフライター氏は、欧州問題担当委員会の委員長を務めている。彼は、「ウクライナ人たちは自国だけではなく、欧州全体も守るために戦っている。我々ドイツ人は、ウクライナに対して戦車など重火器を直接送るべきだ」と主張した。

 ホーフライター委員長は「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、毎日嘘ばかりついている。しかし彼は戦略的な目標については嘘をついていない。彼は、ロシア帝国の再興を目指している。万一ロシアがウクライナでの侵略戦争に勝ったら、周辺の国々は安心できなくなる。ロシアがバルト三国やモルドバまで侵略し、戦争が他国に拡大するかもしれない」と訴えた。

 さらに同氏は、「戦争が長引けば長引くほど、プーチン大統領は『戦争に勝てるかもしれない』と思い込み、戦争がウクライナ以外の国にも広がる危険が高まるだろう」と述べ、ウクライナ政府の要望に応えて重火器を送るべきだと主張した。

 ミュンヘン生まれ、52歳のホーフライター氏は、緑の党でウクライナへの重火器供与を最も強く要求した党員だ。ロシアのウクライナ侵攻開始後、ショルツ政権が決めた連邦軍に対する約1000億ユーロ(14兆円・1ユーロ=140円換算)の特別予算と軍備増強にも賛成している。すでに17年間連邦議会議員を務めるベテランだ。

 興味深いことにホーフライター氏は、緑の党の左派に属し、かつては軍備増強に反対していた。彼は「私は以前、プーチン大統領との対立は交渉によって解決するべきだと考え、ドイツの軍備増強には反対した。だが今では、この考えは間違っていたと思っている。もちろん交渉と対話は続けるべきだ。しかしプーチン大統領のような帝国主義的な政策を進める独裁者に対しては、こちらも武力で対抗し、彼の試みが失敗に終わるということを示さなくてはならない」と語る。

 つまり彼は、プーチン大統領について「交渉や対話によって考えを変えられる指導者ではない」と見ている。秘密警察KGBの元将校は「力」や「軍事的な強さ」だけを理解する指導者だというのだ。

 緑の党が2021年6月に公表した連邦議会選挙向けのマニフェストでは、同党は防衛予算の増額や軍備増強に反対していた。ホーフライター氏の姿勢の変化は、緑の党全体の路線の変更をも意味する。

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