(英エコノミスト誌 2022年7月16日号)
この夏、気温が急激に高まっている欧州だが、年内に厳しいエネルギー危機に直面する。
ここ数日間、地中海のビーチで焼けるような暑さに見舞われたり、熱波に襲われたベルリンやロンドン、ローマの街中でゆっくりあぶり焼きにされたりした人は、心底冷える寒い日のことなど思い浮かばなかったかもしれない。
だが、間違えてはいけない。冬は来る。それも、今度の冬は人々に不和をもたらす容赦ない季節になることは間違いない。
ウラジーミル・プーチン大統領がロシア産ガスの供給を絞っているために急速に悪化するエネルギー危機のせいだ。
過去10年間、欧州を分断寸前に追い込むほど悪化した災難が何度かあった。
2010年代初めのユーロ危機や、2015年の移民危機などがそれに当たる。
2022年冬のエネルギー危機もその仲間入りをする恐れがある。欧州大陸の団結と決意が再度試されようとしている。
市場で点滅する警報ランプ
欧州の大半の人は「ガスタストロフィー(gasとcatastropheをかけた造語)」の兆しや匂いをまだ感じ取ることができていないが、市場では、すでに赤色の警報ランプが点滅している。
今年の冬に引き渡されるガスの価格は現在、1メガワット時(MWh)当たり182ユーロ(184米ドル)で、ロシアがウクライナに侵攻して間もない今年3月初めの水準にほぼ等しく、長らく続いていた水準の7倍に相当する。
フランスとドイツでは、政府が深刻な打撃を受けた電力・ガス会社を救済する準備に入っており、投資家のなかには、ガスの使用制限が定着する今年後半に破綻する事業会社はどこか賭けている人もいる。
これから厳しい選択を迫られることについて国民に率直に語った欧州の政治家はほとんどおらず、戦争やクーデターに慣れているベテランのエネルギートレーダーたちでさえ、不安を口にし始めた。
ロシア産ガスへの依存が急所
ロシアの戦車がウクライナ領内に入り込んで以来、深刻なエネルギー危機が起きる危険は常にあった。
経済制裁とロシアの脅迫によって欧州が最大のエネルギー供給国から切り離される恐れがあるなか、ガスがチョークポイント(急所)になっている。
欧州大陸のエネルギー需要の4分の1はガスで賄われており、そのガスの3分の1はロシアから供給されている。ドイツのように、ロシアの割合がもっと高い国もある。