北朝鮮では警官が商売人を絞り上げて私腹を肥やしている(写真:AP/アフロ)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 北朝鮮では、悪徳安全員(警官)のことを、「オッパシ安全員(スズメバチ警官)」と呼ぶ。「オッパシ(スズメバチ)」とは、北朝鮮映画『世に燃えあがる炎』(1977年)に登場する日本人巡査のあだ名だ。映画の中で悪の限りを尽くすキャラクターがあまりにも印象深く、北朝鮮の人々は、いつしか悪徳警官を指してオッパシ安全員と呼ぶようになった。

 最近、北朝鮮の社会安全省(警察庁)に、「コロナ対応で緩んだ内部規律を正し、警察官が不必要に民心を刺激しないようにすべし」という指示が下された。なぜこのような指示が下されることになったのだろうか。

 先日、北朝鮮の情報源から次のような話を聞いた。曰く、北朝鮮最高指導部に社会安全省の警察官に対する住民の不満の声が次から次へと寄せられており、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が苛立っているという話だ。全国各地で、オッパシ安全員による不祥事が相次いでいるのである。

 例えば、ある安全員は、未亡人の商売人と長く内縁関係にあり、自身の権限を悪用して私腹を肥やしていた。別の安全員は、路上で密造酒を売っていた70才の老婆を取り締まる際に、過度な暴力を振るって老婆を失神させた。一般住民ではなく、法を基に取り締まる安全員が腐敗の温床になっているということだ。

 北朝鮮で、社会安全省の安全員はとても人気のある職業である。その理由は、安全員が法的な取り締まり権限を持っているからだ。

 日々生きるのに精一杯である北朝鮮住民にとって、安全員が持っている法的な取り締まり権限は途方もないパワーを持っている。

 北朝鮮ではどんな商売をするにしても、必ず安全員が間に入る。商品を運ぶ過程で誰かと揉めごとが起これば、最初に取り締まるのは安全員である。そのため、一族に安全員が一人でもいれば、そのツテでたいていの問題は解決できる。それほどまでに、安全員の持つ権限は絶大なのだ。