NATOの旧東欧国は「ところてん式」で兵器の近代化を狙う
ロシア・ウクライナ戦争も4カ月が経過、ウクライナ東部では激しい攻防戦が続き、NATO(北大西洋条約機構)をはじめ西側・民主主義陣営はウクライナ軍への多大な武器供与で前線を支える。
そして、武器を援助する側はもちろん、「隣国を力任せに侵略し現状変更に挑むロシア・プーチン政権の蛮行を阻止する」という崇高な理念に従っているわけだが、「義理・人情」「浪花節」だけでは成り立たないのが国際政治の常。したたかな算盤勘定が働いているのでは? と斜に構えて物事を捉える“眼力”も必要だ。そもそも古今東西、戦争とビジネスは切っても切れない関係にある。
算盤勘定は主に、「兵器の新陳代謝」「実戦テスト」「PR」の3点だろう。
まず「兵器の新陳代謝」だが、現在使用する旧式の旧ソ連系兵器をウクライナに送り、代わりに西側製兵器で更新、NATOの一員として共通化を加速させるというもの。いわば「ところてん方式」で、特に旧東欧諸国や旧ソ連邦構成国のバルト三国がこれに当たる。
これら国々の大半は冷戦期に旧ソ連圏/ワルシャワ条約機構加盟国だったため、旧ソ連製またはこれに準じた国産兵器で武装、その多くがいまだに自国軍で現役だ。だが西側兵器との互換性がないためNATO内の悩みの種となっている。一斉に西側兵器に交換したくても財政的に余裕がなく、しかも2010年代初め頃まで欧州はポスト冷戦の軍縮ムードたけなわ。「急いで交換しなくても」という雰囲気だった。
だが今回、皮肉にもこれが功を奏する結果になった。同様に旧ソ連邦の一員だったウクライナの軍隊も旧ソ連系兵器で武装するため、旧東欧圏のNATO加盟国から提供の旧ソ連系兵器は、少々旧式でもありがたい。ウクライナの将兵にとっては使い慣れ、すぐに前線で使えるからだ。西側兵器だった場合、小銃や携行型ミサイルなどなら数日~数週間で習熟も可能だが、戦車や装甲車など大型兵器の場合、最低でも数カ月は訓練が必要である。
実際に具体例を見ると、例えばポーランドは現在戦車を約800台保有しうち約300台が旧ソ連のT-72戦車系(各種改良型を含む)。そこで同国はT-72系戦車230台以上を現地に送っている。
同様にチェコも数は未定だが、T-72系戦車や旧ソ連の規格の各種自走砲、旧ソ連製Mi-24ハインド攻撃ヘリなど重装備の提供を計画。
その他、エストニア、スロバキア、スロベニアも旧ソ連系大型兵器の供与に前向きだ。
一方、気になる“後釜”の兵器だが、基本的にアメリカやドイツなどNATO主要国から、大半は“軍事援助”という形で補填される模様で、NATO全体としては、ウクライナに「使える兵器」を早急に供与でき、しかも旧東欧圏の兵器を西側式にアップデートもでき、さらにNATOの結束力・実力をロシアに示すことができる。まさに“一石三鳥”だ。
具体的には戦車の場合、NATO加盟国の大半が装備し、デファクト・スタンダードとなっているドイツの「レオパルト2」になる見込み。
他にも「新陳代謝」や「在庫一掃」を意識した武器援助はいくつか見受けられる。即座に前線に送らなければならないため、取り急ぎ手元にある兵器で対応せざるを得ない、という事情もあるだろう。
中でも注目は、ドイツが公言した国産の「ゲパルト自走対空砲(対空戦車)」50台の供与(まだ実現せず)だろう。自国陸軍では2010年代に一線を退いた代物で、倉庫で保管していた文字どおりの「蔵出し」だが、ロシアのドローンや低空飛行の戦闘機・攻撃機に対しては効果的で、対空ミサイルよりもコストパフォーマンスに優れている。
カナダの動きも注目で、歩兵携行用の対戦車火器「カールグスタフ無反動砲」100門と「M72携行式対戦車ロケットランチャー」4500基の提供を決意。前者は30カ国以上が採用するスウェーデン製の優秀な兵器で陸上自衛隊も装備するが、1960年代初めに改良されたやや重たい旧バージョン。後者はアメリカ製の軽便・安価な使い捨て兵器で実戦経験も豊富だが、デビューは半世紀以上前のベトナム戦争で本家アメリカでは新型の対戦車兵器(スウェーデン製AT-4)と更新中。カナダは両火器を新型のものと取り替える好機と捉え、“総ざらえ”も兼ねた大量放出を行っているのかもしれない。