バイクに跨る丸野飛路志さん。丸野さんの右足は義足だ(筆者撮影)

(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

「22年前、突然の事故で右足を失ったときには、まさかこんな日が来るなんて想像もできませんでした。自分だけじゃありません、脊髄損傷で下半身まひになった友人も一緒に、バイクで箱根を走れるとは……、夢のようです」

 感慨深げにそう語るのは、埼玉県の丸野飛路志さん(59)です。

 話を聞いて驚きました。下肢などに重い障がいを負った方々が、自身でバイクを操って、9月に一般道をツーリングするというのです。

 コースは、神奈川県の観光有料道路「箱根ターンパイク」。なんとこの日は、「小田原料金所~大観山」を貸し切って、障がい者と健常者のライダーが、一緒に往復走行するという計画が進行中なのです。

「青木三兄弟」によって立ち上げられたプロジェクト

 この走行会を主催するのは、『一般社団法人SSP(Side Stand Project=サイドスタンドプロジェクト)』(https://ssp.ne.jp/)。2輪の世界グランプリでレーシングライダーとして大活躍した「青木三兄弟」の長男・青木宣篤選手と、三男・治親選手が発起人となって、2019年に立ち上げられた非営利支援団体です。『交通事故等で障がいを負い、バイクを諦めざるを得なかった元ライダーたちに再びバイクに乗ってもらい、バイクを楽しんでもらえるように』と、一度は諦めざるをえなかった彼らの“夢”と“希望”を応援しているのです。

 実は、青木三兄弟の次男・拓磨選手は、1998年、GPマシンのテスト中の事故で脊髄を損傷、車いす生活を余儀なくされました。宣篤氏と治親氏は、そんな拓磨氏になんとかもう一度バイクに乗ってもらいたいと考え、「Takuma Ride Again」というプロジェクトをスタートさせます。それが、現在の「サイドスタンドプロジェクト」の取り組みのきっかけとなりました。

1997年、ドイツ・ニュルブルクリンクで開催されたドイツGPに出場したときの青木拓磨選手。写真は大会直前の練習時のもの(写真:ロイター/アフロ)