新型コロナによる制限が緩和され、観客が戻りつつある大相撲だが。写真は両国国技館(写真:西村尚己/アフロ)

大相撲夏場所(5月場所)は横綱照ノ富士の優勝で幕を閉じた。新型コロナウイルス感染症の影響で、大相撲も一時は無観客開催を余儀なくされたが、夏場所では観客上限が通常の約87%にまで緩和された。日本の「国技」もようやく平常に戻りつつあるが、最大の課題は放置されたまま。それは「人材不足」だ。

(長山 聡:大相撲ジャーナル編集長)

 今年初場所後に御嶽海が大関昇進を果たした。長野県出身力士としては江戸時代の雷電以来、実に227年ぶりの快挙だった。200年を超える数字が出てくることは、野球やサッカーなどほかのプロスポーツではあり得ない。改めて相撲の伝統と奥深さ感じさせるエピソードと言っていい。

 金銭を取って興行する、いわゆる勧進相撲発祥から約600年、現制度がほぼ整った宝暦7(1757)年からでも260年以上の歴史を有す。日本古来のものが否定された幕末の動乱期や、太平洋戦争敗戦直後なども何とか乗り越え、現代にまでチョンマゲ文化を伝え続けている。

 普通に考えれば、プロスポーツとしては最も安定した組織に見えるかも知れないが、将来に不安を感じている角界関係者は思いのほか多い。その一番の理由は、人材確保が難しくなってきている点にある。

 昭和34(1959)年に身長173cm以上、体重75kg以上という新弟子検査の合格基準が制定された。身長不足の舞の海が頭にシリコンを注入してまで角界入りしたエピソードはあまりにも有名だ。

 ところが近年の少子化に加え、スポーツの多様化などで相撲界に魅力を感じる若者が少なくなった。サッカーやラグビー、バスケットボールなどもプロ化され、水泳や陸上のようにアマチュアスポーツでも、実績を残せばそれなりの報酬が得られるようになってきている。

 時代の変化により新弟子の数が激減。そのため平成13年からは、身長167cm以上、体重67kg以上と基準が大幅に緩和された。当初、身長173cm、体重75kgに満たない者は、第2検査といって簡単な体力テストが義務付けられていたが、それもすぐに撤廃された。現在では春場所の中卒者に限り、身長165cm以上、体重65kg以上でもOKなのである。