今後の見通しとウクライナの将来
今後ウクライナ軍側がNATOからの軍事援助により戦力を挽回し攻勢に転移したとしても、攻撃を支援する戦闘機、大量の新型戦車、長射程火砲・ロケット弾、ミサイル戦力など、まさにゼレンスキー大統領が最も欲した攻撃的兵器は、NATO特に米軍の供与品にはほとんど含まれていない。
射程が24~40キロとされる新型のM777榴弾砲90門程度である。
そのために、ウクライナ軍には失地を回復するために必要な攻勢打撃力が質量ともに不足している。
またロシア軍の機甲部隊の攻撃部隊制圧には威力を発揮したジャベリン・NLAWなどの対装甲ミサイルも、ロシア軍が防御に転移して塹壕を掘り、数メートル以上の掩蓋に覆われた陣地内に戦車、砲兵などを展開した場合は、威力を発揮できない。
NATOからの戦闘機の供与がなければ、ウクライナ側の近接航空支援には期待できない。
ただし戦車については、ポーランドから「T-72」計230両、チェコから「T-72」計12両以上など、旧東欧諸国を中心にソ連製の「T-72」戦車総数約250両も供与される予定である。
しかしロシア軍は、現役の戦車以外に約1万両の戦車を油付けにして保管しており、その約6割がT-72型とみられている。
ウクライナ軍の戦車戦力では、供与されたものを含めても、ロシア軍の戦車を含めた対戦車火網を突破するには質的量的に戦力不足である。
ウクライナ軍の戦車戦力の数的劣勢は、NATOの支援を受けても補えず、ロシア軍の陣地線を突破するのは困難であろう。
これらの諸要因を考慮すると、NATOの膨大な武器・弾薬の援助があっても、ウクライナ軍は攻勢に転移し決定的勝利を収める可能性は低いであろう。
結局、戦線は全般的に膠着状態になり、都市部や交通の要衝などの局地的な要点の争奪が繰り返されることになるのではないだろうか。
第1次大戦型の長期持久戦となり、最終的には経済・エネルギー戦、政治戦の様相になるとみられる。その場合、ロシアとウクライナ・NATOのどちらが長期に経済的・政治的に戦争を耐えしのげるかという点で決着が着くことになろう。
その最大の焦点が、米国の2022年11月の中間選挙である。
ウクライナ戦争に伴う物価高騰、生活難が米国内での厭戦気運を高め、バイデン政権が敗退し共和党の発言力が強まれば、停戦への動きが加速する可能性がある。
また、米国のウクライナ戦争による戦争ビジネスは、新たな400億ドルの支援の内容から見る限り、米国内に還流される資金が主であり、バイデン政権はウクライナ支援を理由に米国民の税金を、自らの利権構造に取り込んでいると見ることもできる。
武器貸与法に依る武器援助はあくまでも貸与であり、戦争に勝利しようとしまいと、ウクライナ政府は今後米国から受けた武器貸与額に対する利払いを含めた債務を長期にわたり返済しなければならない。
もし実質的に敗北した場合は、ロシアから賠償金支払いも請求されることになろう。
それらの債務を背負うのはウクライナ国民だが、そのことを承知の上でゼレンスキー大統領は、領土を完全に奪還するまで長期にわたる戦いを続けることを国内外に対し表明しているのだろうか。
日露戦争の負債を完済するのに、日本は80年以上かかった。ウクライナは100年以上、武器援助の負債返済に追われることになるだろう。
領土の完全奪還を強行すれば、東部南部に住むロシア系住民の反政府活動がまた活発になり、内戦が再発するであろう。問題の根本的解決にはならない。
ロシア系住民を絶滅するか、ロシアに追い返すかしなければ解決しない。
しかしそれにはあまりにも犠牲が大きく、ロシアによる核戦争その他の悲惨な結果を招きかねない。
ゼレンスキー大統領は、現実的な決断を下すべきであろう。
もともと彼は大統領選の時は、ロシア系住民を含めたウクライナ国民の融和を主張していたはずである。