(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
ゲームのきっかけを与えているのは当局者
危惧した展開に入っているように見える。
4月18日、ドル/円相場は128円を突破し、断続的に年初来安値を更新している。過去の経験則を踏まえると、円高であれ円安であれ、相場について政策当局者が嫌気するような情報発信をすれば、必ず具体的な政策介入を求めて市場参加者はつけ上がる。
このところ、政府関係者からは円安を「悪い」と評価するような情報発信が見られる。4月17日には、頑なだった黒田日銀総裁が「急速な円安はマイナス」と述べた。こうなると、「口先だけではないのか試す」という意欲を投機筋は持つ。
例えば、円売りで攻め続けた結果、日銀が何らかの引き締め措置を出してくれれば、その時は(一瞬でも)円高になるだろうから、そこで反対売買すれば勝算は立ちやすい。また、そうした状況に至れば(既にそうなっているように)、メディアは「日銀は動くのか?」と大仰に報じて「日銀 vs. 為替市場」の対立構図を煽るため、円売り投機ゲームは大衆にも注目されるようになる。
そうして政府・日銀の一挙手一投足に因縁をつけ、為替売買が行われるようになると、無用な政策資源を浪費する展開が予見される。白川体制の円高対応で散々経験した話だ。あれだけ緩和カードを消費しても、結局、円高はFRBが正常化プロセスに着手し、欧州債務危機が終息するまで止まらなかった。
そうした泥沼化の兆候はまま見られている。
4月13日、都内で開かれた信託大会で、黒田総裁は「現在の強力な金融緩和を粘り強く続ける」といつも通りの挨拶をした。これが円売り材料となり、ドル/円相場は126円台に乗せた。「信託大会における日銀総裁挨拶」を注目していた市場参加者はほとんどいないと思われるが、為替市場では盛大な円売り材料として扱われた。投機筋から注意深く見られていたということなのだろう。
2016年9月のイールドカーブコントロール(YCC)導入を経て表舞台から(狙い通り)消えた日銀だが、信託大会挨拶を受けた円安進行は、再び日銀が表舞台に引きずり出されたのだと感じさせるものだった。