(文:石川雄介)
EUで唯一の独裁国家ハンガリーを率いるオルバーン首相の総選挙圧勝は、米バイデン政権が掲げる「権威主義陣営との対決」に完全には追従しない国の強かな地政学を浮き彫りにした。ロシアのウクライナ侵攻について曖昧戦略をとる国は、インドをはじめ少なくない。民主主義陣営が対中国「競争的共存」を進める上で、こうした「異端児」国家も疎外せずに連携を築く度量と包容力が問われてくる。
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「月から見えるほどの大勝利を収めた。(EU[欧州連合]本部がある)ブリュッセルからも確実に見える」
4月3日に実施されたハンガリー議会選挙でオルバーン・ヴィクトル首相率いる右派与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が勝利し、オルバーン首相は4選(通算は5選)された。同日夜、オルバーンはブダペストでの支持者向けの演説でそんな風に吠えた。ブリュッセルにその勝利宣言を聞かせてやろうとでも言うように。
野党は、ロシアによるウクライナ侵略を受けて、ロシアと親しい関係を築いてきたオルバーン首相を「ハンガリーのプーチン」と呼んで批判したが、結果はオルバーンの圧勝だった。与党は、憲法改正が可能となる3分の2を超える議席を獲得した。
オルバーン首相が続投することが明らかになった今、ウクライナ戦争におけるハンガリーの対応が注目される。ウクライナ戦争の中でハンガリーは曖昧戦略をとっており、専制政治と民主主義の体制間競争という構図に当てはまらない。ハンガリーを含めたそのような「異端児」を包容することができるのかが、日欧米を始めとする民主主義陣営に問われている。
専制政治vs.民主主義の構図に当てはまらない存在
ウクライナ戦争のさなかに、オルバーンは勝利した。それはウクライナにとっても米国とEUにとってもいささか「不都合な真実」であるに違いない。ジョー・バイデン米大統領がワルシャワでの演説で「ロシアは民主主義を握りつぶそうとしている」とロシアの専制政治体制を批判し、実はウラジーミル・プーチンが恐れているのはNATO(北大西洋条約機構)ではなく、ウクライナの民主主義であるとの見立てを表明した。ウクライナ戦争は民主主義国と専制主義国との戦争であるとするのである。そうだとするとハンガリーはこの構図にうまくあてはまらない「異端児」のような存在となる。ハンガリーはEUに加盟し、NATOに所属していながらも、民主主義の価値観は十分に共有していないからである。
民主主義の度合いを自由主義、選挙制度、平等、参加、熟議の5つの観点から測定しているV-Demの指標において、ハンガリーはEUで唯一の独裁国家(選挙独裁主義)と認定されている。また、国際NGOフリーダムハウスによる自由度評価の指標においても、ハンガリーは「自由(free)」な国とはみなされておらず、EU唯一、「一部自由(partly free)」とランク分けされている。
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