内部文書で中露に対する不信感に言及した金正恩氏が率いる北朝鮮指導部(提供:KRT/ロイター/アフロ)

 ロシアのウクライナ侵攻が始まり、1カ月あまりが経過した。ロシアによるウクライナ侵攻と、反倫理的な戦争犯罪に全世界が非難の声を上げる中、北朝鮮はロシアを公的に支持し、国際社会からのさらなる孤立を招いている。

 だが、北朝鮮は当初からロシアを支持していたわけではない。ロシア・ウクライナ戦争が勃発した時、北朝鮮はロシアとウクライナの間で中立的な立場を取った。だが、ロシア・ウクライナ戦争が予想より長引いたため立場を変えたのだ。

 北朝鮮は、なぜ中立的な立場からロシアを擁護する立場に政治基調を変えたのだろうか。ロシアの北朝鮮大使館に多くの知己を持つ郭文完氏の寄稿の1回目。

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 ロシア・ウクライナ戦争が勃発した直後の2月26日午前、北朝鮮外務省は一通の緊急電文を各国の北朝鮮大使館に一斉送信した。

「ロシア・ウクライナ戦争に関する朝鮮民主主義人民共和国政府の立場」という表題の緊急電文で、「今回のロシアによるウクライナ侵攻は、世界支配と軍事的優位を追求し、一方的な制裁と圧力をかけてきた米国の強権的で横暴な振る舞いに根本的な原因がある」という内容であった。

 電文は、さらに次のように続いた。

「国際的なメディアと専門家は、今回のウクライナ侵攻が発生することになった根本的な原因として、NATO(北大西洋条約機構)の一方的な拡大によって、欧州における勢力均衡が破壊され、ロシアの国家的な安全が脅威にさらされることになったことを挙げている」
「他国への内政干渉を世界平和と安全のために正しいことだと美化すると同時に、それぞれの国の自衛的措置を否定し、挑発して駆り立てる。それが米国の傲慢さでありダブルスタンダードである」

 この電文に関して、ある国の北朝鮮大使館の関係者はこう語った。

「一言でいえば、ロシア・ウクライナ戦争の原因を米国のせいにし、ロシアとウクライナのどちら側にも肩入れせずに、中立的な立場を維持するための、北朝鮮政府の対外政策による措置だ」
「各国の北朝鮮大使館に、緊急電報による指示が一斉に下された日の遅い午後、北朝鮮政府は金正恩の声明ではなく、北朝鮮外務省の個人名義の文章によって、ロシアのウクライナ侵攻に対する北朝鮮の立場を明らかにした」

 言ってみれば、ロシア・ウクライナ戦争の原因はロシアとウクライナにあるのではなく、米国の強権と傲慢によって起きたもので、北朝鮮政府はそれに対し、徹底して中立的な対外政策を維持しろとの緊急電報である。

 なお、声明が外務省の個人名義だったのは、ウクライナに対する配慮だろう。北朝鮮は旧ソ連の崩壊後、ウクライナ政府との合意の下、核技術に精通した科学者を呼び寄せ、核開発に着手したという経緯がある。

 それならば、なぜ北朝鮮政府はロシア・ウクライナ戦争勃発直後に、中立的な立場を取ろうとしたのだろうか。