(福島 香織:ジャーナリスト)
欧州の穀倉地帯であり穀物輸出大国のロシアとウクライナの戦争により、世界が食糧安全保障危機を強く意識し始めた。その中で、中国は「洋種子」(欧米穀物メジャーなどが市場寡占するハイブリッド種子)依存からの脱却を急いでいる。
4月10日、習近平が海南省三亜市の国家南繁科研育種基地を視察に行ったとき、「種子がわが国の食糧安全保障の鍵である。自分の手で収穫した中国種子だけに依存することで、ようやく中国の食糧問題を安定させることがで、食糧安保を実現できるのだ」と語った。中国は2021年段階でなお年間7万トンの種子を海外から輸入している。
ハイブリッド種子はメンデルの第1法則(優劣の法則)で雑種第1代だけが理想どおりの作物となる。2代以降になると劣性遺伝が分離して出てくるので、毎年雑種第1代の作物を収穫するには、種子を購入し続けなければならない。つまり、種子を自給できなければ、真の食糧自給ではない、ということだ。
中国市場に進出している、ハイブリッド種子を売る多国籍大手種子企業は70社以上という。半導体は「ハイテク産業のコメ」という呼び方があるが、ならば「種子」は農業の「半導体」。ともに完全国産化しなければ、国家の安全保障が脅かされる、という危機感が習近平の発言にはにじんでいる。
「洋種子」依存脱却に取り組んできた中国
中国にとって洋種子問題はかなり古くからの課題で、洋種子依存脱却への努力は10年以上になる。2000年代と比較すれば、洋種子の占有率はかなり抑えているはずだ。食用トウモロコシは、ピーク時は海外品種が9割を占めていたが、2016年の段階では20%にまで抑えられているという。2007年、青果輸出基地であった山東省の維坊市では80%が洋種子に依存していたが、2021年にはそれが20%くらいまでになっている。