(福島 香織:ジャーナリスト)
「中国ロックの父」と呼ばれた80年代のロックスター、崔健(ツイ・ジエン)が4月15日夜、ライブストリーミングで3時間におよぶライブを行った。フェニックステレビの人気司会者、竇文濤との対談を挟んで17曲を歌い、視聴者数は最終的に4600万人以上を超え、1.2億の「いいね」がついた。
私と同世代の友人たちは、中国人も日本人も、久しぶりの崔健の歌声に胸を熱くした。そして、中国人の友人はこう言った。「あの頃(80年代)、私たちはあんなにも自由を渇望していたのに」。
上海では新型コロナ対策の不条理なロックダウンが続き、中国全土の45以上の都市でもざっと4億人が移動制限など物理的な不自由を強いられていると言われている。また習近平政権になってから、イデオロギー統制の強化、言論統制、メディア統制の強化、相互監視、密告制度の強化、AI、ハイテクによる社会監視強化という形で、精神的にも束縛が進んだ。若者の多くは「躺平」(寝そべり)と呼ばれる、無気力、無抵抗、諦観といったスタイルで、こうした不自由な時代に消極的に抵抗している状態だ。
そんな状況で、本当に数十年ぶりに崔健の歌を耳にしたかつての若者たち、つまり今の中高年たちが、何とも言えない動揺を感じながら、なぜ、今、崔健のライブが突然行われたかを語り合っている。これは何かの前触れではないか、と。
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崔健のことを知らない人には、もう少し説明がいるだろう。1961年に北京で生まれた朝鮮族のロックアーティストである。父は人民解放軍の文工団のトランペット奏者、母親は朝鮮族舞踏団のダンサーと芸能一家に生まれ、幼いころから音楽の才能を発揮。81年から北京交響楽団のトランペット奏者となった。