“経済の先にある幸せ”を追求する
藤田 リニューアル時、ウェルビーイングをコンセプトに採用し、具体的にはどのようにパークを進化させていったのですか?
ハースト シンプルなことから始めました。インタビューでは、ほっとできる場所で過ごしたいとか、携帯やSNSから距離を置きたい、リラックスしたいという声が多かったので、まずは気軽に足をとめ、風景を見入ることができるような場所を増やそうと。もともと宮沢湖を囲む道には、家やツリーを模った木製のベンチもありフォトスポットとしても賑わっていましたが、それ以外にも息をつける場所を多くするために、ベンチやチェアを増やしていきました。デジタルデトックスも、この美しい自然に見入れば、自ずとかなうのではと。
レストランに入るのに行列に並んだりするのもウェルビーイングから遠ざかる気がしました。店の混み具合を気にして食事をするなんてナンセンスでしょ? そこでパークの入口に近い「レットゥララウンジ」は、食事をしなくても入って休むことができる場にしてあります。もちろんあたたかいコーヒーと自慢のシナモンロールもおすすめですが、店内にある小説やムーミンのショートムービーを楽しむのもいい。あたたかい季節なら、テラスのハンモックに揺られるのも一興です。
また、展示施設のコケムスには、「ライブラリーカフェ」を設置し、約400冊にのぼるムーミンの関連書籍を置きました。カフェに来た方々は、自由にこれらを読むことができますし、カフェメニューも満喫することができます。
さらには、“子どもといっしょにできること”にも注目しました。ワークショップを定期的に開催して、ただ遊ぶだけではなく、何がしか学びにつなげることができればと。コケムスにはワークショップが開催できるキッズスペースを完備しましたし、体験価値の提供は続けていきたいですね。自然の中で得られる体験は、より深い満足感につながるはずですから。
藤田 体験や五感に響くものの豊かさを形にしていく。結果的にそれが、ムーミンが生まれた北欧的幸福感ともいえる“ウェルビーイング”にたどりついたということでしょうか。従来のテーマパークが持つ商業主義とは目的を異にしているかと思います。
飲食も回転率が重視されているスペースは、なんとなくわかりますよね。次のお客さんのことが気になってソワソワしますし、リラックスという雰囲気ではなくなります(笑)。
ハースト ムーミンの世界がそもそも商業主義とは真逆ですから。パーク内のショップに陳列する商品も、たとえばペットの洋服などはNGです(笑)。なるべく人間の利己的な意識から離れたもので構成しています。
藤田 “経済の先にある幸せ”は、ウェルビーイングの大きな柱になっていると思います。時代の変遷とともに、幸せのあり方も多様化しました。これからの時代に求められる幸福は、物質的な世界の向こうにあるのかもしれません。
コロナ禍だからこそ生まれ変わることができた
藤田 ムーミンバレーパークがオープンしたのは2019年の春。開業1周年を迎える頃には、新型コロナウイルスの流行が始まり、緊急事態宣言も経験されました。新型コロナウイルスの流行は、経営にどのような影響をもたらしましたか?
ハースト 来場者は激減しました。東京はもちろん、横浜やさらに遠く離れた地域からも来訪される方々がいましたが、他県への移動が制限されたこともあり・・・経営的な影響は、計り知れませんでした。