飯能に目をつけたのは、もともと、ムーミンの世界を再現した「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」があったことが大きかったです。あの公園は、当時の市長がヤンソン氏に「ムーミンをテーマにした公園を作りたい」と手紙を出したことから始まったと聞きましたから。

 宮沢湖のあるこの地は、湖が美しく、四季の移ろいも味わえる。テーマパークというと乗り物などが浮かびますが、テーマパークというよりも原作の世界観を踏襲したネイチャーなイメージに寄せていくことにしたんです。

藤田 私は幼少の一時をスウェーデンで過ごしました。社会人になってからはフィンランド企業でキシリトールを日本に導入する事業を行いましたし、何かと北欧には縁があるんです。ムーミンバレーパーク周辺の豊かな森は、北欧の湖畔と森を思い出させますね。ちなみにナーンタリ(フィンランド南西部の都市)のムーミンワールドにも行ったことがあるんですが、子ども向けの印象が強かったです。

大人も子どもも楽しめて居心地良く過ごせることが大切

藤田 昨年(2021年)のリニューアルは、開業から2年目という早い時期に行われましたが、どのような理由からですか?

ハースト きっかけは、来場者へのインタビューでした。当初はムーミンのコアなファンに寄り添った展示などが多く、ムーミンの物語にフォーカスしていました。

 しかし足を運んでくださった方々に話を聞くと、当初私たちが想像していた内容とは異なる声が多かったのです。そもそもムーミンの物語やキャラクターを詳しく知らないという方もいて、「家族や恋人、大切な人と自然を感じてゆっくり過ごしたい」といった来場者がこの地に求めているものが見えてきました。ならば、キャラクターそのものや物語の内容にフォーカスするよりも、ムーミンの世界観を踏襲しながら、来てくださる方々の潜在的な期待に沿うものにしていくべきだと考えました。

 自然と近い距離で、お客さま一人ひとりにとって、心身から居心地のよい空間であること。来場者の声を読み解いていくと、飯能ならではのパークの輪郭が見えてきたんです。

藤田 ムーミンの世界観は哲学的でもあります。キャラクターは子どもにも人気ですが、本来は大人こそ楽しめる物語というか・・・、深いんですよね。リニューアルは、そういったことも意識されたのでしょうか?

ハースト たしかに、ムーミンの世界は思惟に満ちています。でもだからといって大人だけをターゲットにするのではなく、子どものための世界も保ちました。パークの中で行うショーの内容も子どもが楽しめるダンスにリニューアルを行いました。パーク内を散歩するムーミンとゲストが触れ合うことができるようになったこともとても喜ばれています。大人でも子どもでも、“それぞれが思い思いに楽しめ、居心地良く過ごせること”が大切だったんです。

ロバート・ハースト氏
ムーミン物語 代表取締役社長
イギリス出身。投資銀行に勤め、バンクAIG証券日本代表を経て、フィンテックグローバル取締役会長を務める。現在、ムーミン物語代表取締役社長