(平田 祐司:香港在住経営者)
4月4日、香港のキャリー・ラム行政長官は5月に予定されている次期行政長官選挙への不出馬を表明し、本命視されている香港政府ナンバー2の政務司長、ジョン・リー(李家超)氏が職務を辞任し、正式に長官選挙への出馬を示した。
出来レースとはまさにこのこと。北京中央(習近平国家主席)の覚えめでたい李氏が次期香港トップにつくのは99.9%確実で、香港にある中国の出先機関、中弁聯関係者は「李家超氏は中国が信任する唯一の候補」とまで表明した。5月8日の選挙人選挙は李氏に対する「信任投票」になる。
親中派はこの信任投票を「愛国者による香港統治」「完成された完璧な選挙制度」と持ち上げているが、北京中央に指名された人間を「愛国者」によって構成される選挙委員によって信任投票することを「完璧な選挙制度」などと言っているのだから、われわれの常識とは相当ずれている。
いや、昨年の立法会選挙の茶番劇を、「外国の傀儡政権誕生を防ぐ選挙制度改善」と持ち上げた某無料日本語紙のような方々もいるので、自分の感覚とはかなりずれていると言った方がいいか(笑)。
経済低迷の香港で始まる「武官政治」
1957年生まれの李家超氏は、1977年に香港警察に加入した。以来、主に諜報畑を歩み、2017年に香港政府の治安部門トップ保安局長に昇進。2019年の反政府デモ徹底鎮圧とリンゴ日報廃刊の功績を認められ、2021年6月に香港政府ナンバー2の政務司長に異例の抜擢を受けた人物だ。
その容貌もさることながら、抗議デモ関連で1万人以上の香港市民を逮捕し、催涙弾等で暴力的に抗議活動を鎮圧した張本人である。手段を選ばぬ形でリンゴ日報をはじめとする民主派メディアの息の根を止めて、多数の民主活動家を刑務所に送り込んだ。
当然、北京中央の覚えはめでたく、警察官僚が決してつくことのなかった政務長官ばかりか、今後は香港初の警察出身の行政長官としてまさに「武官治港」(軍警による香港統治)を推し進めることになる。
香港財界は表面的には歓迎の意思表示をしているが、外信の報道では政治・経済のキャリアがほとんどないことから、「海外経験も乏しく国際ビジネスセンターとしての香港の将来に対する意識も希薄だ」「米国から制裁対象になっている人物が海外を訪問してビジネスについて話し合うことは困難」と失望の声を伝えている。
筆者も、北京中央(習近平主席)は、低迷する香港経済の立て直しよりも香港の治安強化、統制強化を優先したと感じている。