習近平政権による対露軍事支援は今後の焦点の一つだ(写真:ロイター/アフロ)

(岩田 太郎:在米ジャーナリスト)

 隣国ウクライナを侵略したウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアの残忍性が、首都キーウ近郊の街々における虐殺でますます浮き彫りとなっている。ロシアに味方する国はジェノサイドに加担していると見られかねない状況だ。

 ここで注目されるのは、中立を装う中国の本心である。日本のチャイナウォッチャーたちの大半は、中南海(北京で中国共産党要人の邸宅が集中する地域)が「当惑」「困惑」「苦悩」を余儀なくされていると見ている。

 たとえば、田中秀征元衆議院議員は、「このところの中国の動きには、戸惑いが感じられる。ブチャの惨事についても、ロシア側に立っているものの、動揺しているように見える」との見解を表明している。

 評論家の石平(せき・へい)氏も、中国共産党傘下のメディア報道でロシアの国名の登場順が格下げされていることを指摘し、ロシアと誓った「全面的戦略協調パートナーシップ」との表現も封印することで、「プーチンの戦争の加担者という立場から、中国が一転してロシアとの距離を徐々に置き始め」「負け馬に乗るつもりはない」と論じた。

 また、東京財団政策研究所の柯隆(か・りゅう)主席研究員は、「中国経済が(欧米日で構成される)先進国に依存しているのは明白な事実である。それを無にしてロシアと同盟を組むことはあり得ない」との前提を基に、「習近平政権の本心は、米国との関係を改善したいということである」とする。

 確かに中国共産党は、対露政策で最大限の柔軟性を確保するために、明確な立場を公式に発表することを避けている。それは、共産党指導部が合理的に考え、中立的な立場を維持するために苦悩する姿に映る。だが筆者は、中国共産党の本心はそんなに素直でも合理的でもないとの立場を採る。

合理性ではなく指導者のメンツ

 なぜなら、中国・ロシア・北朝鮮のような権威主義を国体とする国家にとっての最重要課題は、指導者のメンツ――つまり権威そのもの――の護持であり、それはいかなる国益や理性、合理性にも優先する核心的事項であるからだ。

 今回のプーチン大統領の戦争に関する決断は、ロシアの国益や持続性、合理性の面からは説明がつかない。だが、独裁というロシアの国体と内在的な構造から分析すれば、「指導者を守るための、国内矛盾のはけ口の必要性」があぶり出され、開戦が不思議でも何でもなくなる。

 焦点となっている習近平政権の対露軍事支援についても同様に、「国際社会における中国の立場」という合理性ではなく、「党の核心たる習近平の権威護持」「指導者が成し遂げる中華民族の偉大な復興」という中国共産党の内在的な最重要課題を中心に据えて読み解くと、将来における中国の行動が正確に予測できるようになる。