付き合い残業や休日出勤の復活を憂慮する声が高まっている

(太田 肇:同志社大学政策学部教授)

「付き合い残業」や「会社行事の強制参加」が復活?

 新型コロナウイルス対策として18都道府県に適用されていた、まん延防止等重点措置が、3月21日の期限をもって全面解除された。制約が減るのを歓迎する声があがる一方で、静かに広がっているのが、せっかく進みつつある「働き方改革」が元に戻るのではないかと危惧する声だ。

 一昨年のコロナまん延を機に、政府の要請を受けて日本でもテレワークが一気に浸透した。残業が減って、長年の課題だった長時間労働の改善も急速に進んだ。業績悪化や不透明な先行きに苦慮する経営者とは裏腹に、労働者の側にはこうしたなし崩し的な変化を前向きに受け止める人が少なくなかった。

 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出されている間は忘年会や新年会も軒並み中止されたが、それについても不満よりむしろ「ありがたい」という声が多く聞かれた。

 それだけに「まん延防止措置」の解除で、付き合い残業や休暇を取りにくい空気や、自由参加といいながら半ば強制参加に近い各種行事などが復活するのを恐れている人が少なくないのである。折しも歓送迎会やお花見といった年中行事が目の前に控えている。

背景にある日本企業特有の「同調圧力」

 社員たちがそのような危惧を抱くのも無理はない。コロナ下で働き方が変わったからといっても、組織や人事の仕組みそのものはほとんど変わっていないのだから。

 付き合い残業や行事参加などを強いる職場の同調圧力。背景には日本企業特有の構造がある。その柱はつぎの3つだ(拙著『同調圧力の正体』より/PHP新書、2021年)。

(1)閉鎖性
今なお新卒一括採用が中心で、終身雇用(長期雇用)が前提になっている。そのため条件のよい転職は容易でなく、少々不満があっても今の会社に留まらざるを得ない。

(2)同質性
国籍・ジェンダーなどの多様性が低く、正社員は学歴や経歴も似通っている。しかも長期間にわたって社内で純粋培養されるため、価値観や考え方もいっそう同質的になる。

(3)集団主義
欧米などの企業では一人ひとり仕事の分担が明確に決められている(職務主義)。それに対し日本企業では分担が不明確で、たとえ分担が決められていても課や係といった集団単位でこなす仕事が大きな比重を占める。

 このような組織の性格から、社員の利害や考え方は概ね一致しているもの、あるいは一致するものとして扱われる。また分担が明確になっていないので、周りに合わせて働かざるを得ない。そのため会社の方針や上司の提案に異を唱えることが難しい。周りが残っていれば一緒に残業するのが普通だし、繁忙時には休日返上で出勤するのは当たり前なのである。