(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

 2022年1月7日、アメリカ・ニュージャージー州の上級裁判所で下された「乳児虐待事件」に対する無罪決定が、今、世界的に注目を集めています。

 77ページにも上るその膨大な決定文(https://drive.google.com/file/d/1cuL0JDkUOEz6oGR32HuW72UxKeigPRa5/view)の中には、以下のような一節がありました。

〈人間の乳児は、(中略)サル、木製の人形、その他の擬人化されたダミー人形とは全く異なる〉

〈一人の人間が、AHT(乳幼児の虐待による頭部外傷)として定義される三徴候(①硬膜下血腫、②眼底出血、③脳浮腫)を引き起こす揺さぶりができるかどうかのテストがなされたこともない以上、(中略)科学的または医学的証拠として不正確かつ誤解を招くように提示されうる「ジャンク・サイエンス」に類似しており、刑事裁判での因果関係の証明のために使用するには、強く予断を与える一方、きわめて低い証明力しか与えないこととなりうる〉

 つまり、いくらダミー人形での実験を重ねたとしても、その結果は実際に人間の赤ちゃんが揺さぶられたときに被る影響と同じであるとは限らない以上、刑事裁判での証明にはならない、というのです。

ダミー人形を用いた実験データが虐待の根拠に

 人間の赤ちゃんは「サル」や「人形」ではありません。にもかかわらず、これまで「児童虐待の専門家」と称する人々は、長年にわたって動物やダミー人形等を使った実験のデータを「SBS(乳幼児揺さぶられ症候群)」および「AHT(乳幼児の虐待による頭部外傷)」の根拠として使ってきました。

厚労省が作成した揺さぶられっ子症候群予防のためのビデオ『赤ちゃんが泣きやまない』の画像。厚労省も「虐待に詳しい」と称する一部の内科医や小児科医の意見に頼り、「揺さぶられっ子症候群」理論を固く信じている

 そして、アメリカのみならず、日本でもその“仮説”によって、多くの保護者たちが身に覚えのない『揺さぶり虐待』を疑われ、理不尽な親子分離や刑事訴追されてきたのです。