(福島 香織:ジャーナリスト)
今話題の華人「女スパイ」、クリスティン・リーこと李貞駒について、英国情報局保安部(MI5)が安全保障問題として警告したことは、日本の政界、財界の人たちにとっても他人事ではあるまい。なぜなら、李貞駒の活動は世界各国で華人たちが普通にやってきたことであり、日本でも普通に行われているからだ。
ただ、今まではそれがスパイ行為としてやり玉に挙げられることはあまりなかった。ではなぜMI5は今、彼女を名指しで警告したのか、そして、日本人はこれをどう捉えるべきなのか、きちんと整理しておく必要があるだろう。
献金などを通じて英国政治に干渉
李貞駒は58歳の女性弁護士。11歳のとき両親とともに香港から英国の北アイルランドに移民。見た目が東洋人であることから厳しい差別を受けたというが、勉強に励み、弁護士として成功。今は英国籍保持者で2人の息子がいる。英国人ではあるが華人アイデンティは強く、華人の英国参政運動を支援しており、2006年には英国華人参政プロジェクトを創設している。
その彼女が中国共産党と連絡を取り合い、政治家への献金などを通じて英国政治に干渉しようとしていた、とMI5は警告を発した。
英国での報道を総合すると、英国選挙委員会の記録上にあるだけで、李貞駒は2015年から2020年までの間、労働党のベテラン議員、バリー・ガーディナーの事務所に58万4177ポンド相当を献金していたという。また2013年4月、自由民主党の党首であるエド・デイビーに5000ポンドの献金をしていた。デイビーはエネルギー・気候変動相だった。また2014年に行われた自由民主党の華人パーティのスポンサーとなり、自由民主党のサマートンとフロムの選挙区の華人議員候補であるサラー・ヨンへの支援を行った。2013年には労働党議員のアンドリュー・ディズモアが英国超党派華人議会団体(APPG)主席として4日間の北京訪問を行う際、航空機チケットなどをアレンジするなど資金提供をしていた。
こうした政治献金の中でも、ガーディナーが受けた資金が最も多く、李貞駒の息子はガーディナーの事務所で仕事をしている(MI5の警告を受けた後、離職した)。