人気が高まりつつあるジャパニーズ・ウイスキー(写真:ロイター/アフロ)

(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

 昨今、韓国のスーパーやデパートの精肉コーナーに行くと、「オーストラリア産の“WAGYU”はいかがですか?」と販売員にしばしば声を掛けられる。

 かつて外国産牛肉市場を牛耳っていた米国だが、豪州産牛肉の勢いに飲まれたことや狂牛病などの影響から輸出力が低下している。その一因は2003年に米国で発生したBSE(牛海綿状脳症)だ。

 日本でもBSE問題の後、牛肉の輸入先は豪州産のほぼ一本だったが、米国産牛肉の輸入規制が緩和された後は徐々に増加している。2018年のデータを見ると、豪州産の51%に対して米国産は41%まで回復した。

 韓国の場合、2008年の「狂牛病ろうそくデモ」の際に米国産牛肉の輸入再開について激しい抗議活動が行われたため、筆者は韓国でも当然のように豪州産のシェアが上がっているものとばかり考えていた。ところが、「韓国は昨年、米国産牛肉の最大輸入国になった」「日本を抜いた」という韓国・KBSの1月11日のニュースを見て、意表を突かれた。

 米農務省及び米食肉輸出連合会の発表によると、昨年1月から11月まで韓国が輸入した米国産牛肉は合わせて25万3175トンで、前の年の同じ時期に比べて16%増加した。これは、2020年まで米国産牛肉の最大輸入国であった日本よりも約1万5000トン上回っている。

 韓国の人口は約5163万人で、日本の1億2569万人の半分以下だ。単純計算でも、「韓国人は日本人の2〜3倍の牛肉を食べている」という話になる。そこに少し疑問を感じたので調べてみると、この報道にはカラクリがあった。

 少々古いデータではあるが、2017年基準の韓国市場における国家別牛肉の輸入量では、「米国:48.4%、豪州:42.8%」と、日本の輸入先と順位が異なる。韓国内での米国産牛肉消費量が日本を超えたからと言って、牛肉全体の消費量が日本を超えているわけではない。

 しかし、韓国では今、空前の“肉ブーム”が到来していることは事実だ。

 ソウル市内のある焼肉店では、昼食で焼肉にありつこうと、朝の9時から客が列をなしている。また、かつて屠畜を行う市場でしか見ることのなかったタンを扱う店舗も増えており、厚切りタンに舌鼓を打つ韓国民も少なくない。

 コロナ禍前、日本を訪れた韓国人が「牛タンだけは食べられない」と話していた記憶が蘇る。

豪州産の“WAGYU”。既に和牛は日本だけのものではなくなってしまった(写真:ロイター/アフロ)