(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
私は最近『さまよえる韓国人』(WAC)を上梓した。その中で、大統領選挙後の韓国社会について、一段と「さまよう」状態になるだろうと予想した。
そう考える大きな理由は、文在寅政権下で韓国社会の分断が、単に「保守vs革新」や「地域vs地域」という面だけでなく、多層的、多方面に及ぶようになっているからだ。
韓国社会の分断を解消できそうにない両候補
その分断とは、例えば次のようなものだ。
〇世代間の分断・・・若者は、希望する就職が得られず、不動産価格の高騰でマイホームの夢が断たれている。結婚、育児さえ諦める人が多く、自分たちよりも就職や住宅環境で恵まれていた中高年層と意識の乖離が激しい。
〇男女間の分断・・・女性はセクハラの被害を訴え、男性は徴兵制度など逆平等を訴えている。
〇貧富の分断・・・持てる者と持たざる者の格差が広がっていたが、そこに新型コロナによる追い打ちにより自営業者の倒産・自殺などが相次いでいる。
文在寅政権下でこのような分断が進行したが、政府は適切な対応を取らなかった。逆に、一部の富裕層による不動産投機や内部情報にアクセスできる権力者による不動産をめぐる不正が横行し、社会の公正がいっそう失われた。その煽りを食った都市部の一般市民は、まともな住宅にはとても手が出ない状況に追い込まれてしまった。
この状況を改善するために一般市民が頼みにできることがあるとすれば、それは来年3月に行われる大統領選挙でよりまともな大統領が選ばれることだが、現在、与党「共に民主党」と最大野党「国民の力」の両候補者陣営は、ともに相手方のスキャンダルを攻撃することに明け暮れ、互いに支持率を乱高下させるばかりになっている。結局、次期大統領選挙はどちらの候補者も魅力に乏しく、最も低調な選挙戦になると言われ始めている。
次期大統領が公正と正義を回復するような強力なリーダーシップを持った政権を樹立することはおそらく不可能であろう。
だから私は、どちらの候補が当選しても韓国は今以上にさまよい続ける可能性が高いと予想したのだ。ここでは、改めて次期大統領選の争点、2人の主要候補の弱点、そして選挙戦における両候補の対立軸を分析し、次期政権の行方を占ってみたい。