12月13日、オーストラリアを訪問し、キャンベラの国会議事堂で調印式に臨んだ文在寅大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 韓国政治には「大いなる謎」がある。それは、文在寅大統領が内政、経済、外交、北朝鮮関係のあらゆる面で政策の成果がなく、失敗を重ねているにも関わらず、その支持率が依然として40%前後をキープしていることである。

 文在寅政権の前半には南北関係の改善という成果、後半には「K防疫」というコロナ対策の成功によって人気が保たれてきた。ただ、その「K防疫」もすべてが文在寅氏の功績ではない。これまでのSARSやMERSという感染症対応の失敗を踏まえ、過去の政権が改善してきた検査体制があってこそのものと言える。

 それでも昨年4月の総選挙は文在寅政権の「K防疫」が評価され、勝利を収めることが出来た。ところがその後、有権者の関心は南北関係やコロナ対策の成功を忘れ、「不動産問題」や「経済や生活の問題」に移ってしまっている。その証拠に、与党「共に民主党」はソウル釜山の市長選挙で大敗し、政党支持率も野党「国民の力」に抜かれ、その差は誤差の範囲を超えている。

 このように与党の支持率は下がっているのだが、文在寅大統領の支持率はそれほど落ち込んでいないのだ。そこが外国人の目には、韓国政治の大いなる謎に映る。

「文在寅人気」には芸能人の人気と通じるところが

 私はその理由について、22日に発売する著書『さまよえる韓国人』(WAC)の中で、次のように分析した。

<文在寅氏への支持が落ちないのには、ある種の「芸能人を応援するような気持があるのではないか。今風の言葉を使えば「ファンダム」型の政治ということになる。芸能人のファンであれば、「何があっても」応援するだろう。失敗しても失敗を責めず再起を期待する。その失敗を責める敵対勢力に対しては徹底的に戦う。

 文在寅氏を熱心に応援する支持層も同様なのではないかだろうか。文在寅大統領が政策的にはほとんど成果を残せていなくても「ファン」であれば・・・無条件で自分が守ってあげなければと考える。反対に実際は政権の成果でもない吉事(「先進国入り」や「K防疫」)があれば、実際以上に「さすが私たちの大統領様だ」と考える>

 こういういい方は、多くの人気の高い芸能人には失礼であり、あらかじめお詫びをする。しかし、現実に起きていることはそういうことである。文在寅氏の政策の失敗を支持層の人々は問題とせず、文在寅氏の自画自賛を鵜呑みにして賛同する。

 おそらく文在寅政治の最大の成功は、韓国の国民をこのように変えてしまったことだろう。そこには、文在寅氏の得意技である自画自賛と責任回避がある。文在寅氏を応援する支持層の団結は強い。それに加えて、メディアを上手にコントロールし、圧力をかけて文在寅氏批判の報道を最小限に抑え込んでいる。日本ではあまり知られていないが、青瓦台の演出、メディア対策は手が込んでいるのである。