12月9日、米国のバイデン大統領が主催したオンラインでの「民主主義サミット」に参加した文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 今年1月に退任したハリー・ハリス前駐韓米国大使の後任が11カ月間も指名もされないまま、駐韓米大使が不在となっている。米国メディアでは、これが米韓間の緊張要因に浮上しているとの分析が報じられる事態となっている。

 12月16日の米NBC放送によると米国のある元高官は、「この数カ月間、これに関する不安感があり、それがさらに強まっている」という。

 折しも、この8月に駐日米国大使に指名されていた、オバマ元大統領の首席補佐官を務めた前シカゴ市長のラーム・エマニュエル氏の人事について、米国上院で正式に承認された。およそ2年5カ月も空席だった駐日米国大使のポストも、これでようやく後任が決まった。駐日大使が決まったのに、駐韓大使が決まらないことに、韓国の人々は不安を感じているとNBCは伝えている。

「韓国人たちは侮辱された」

 米国サイドから米韓関係を不安視する声はまだある。

 NBCの報道によれば、元中央情報局(CIA)関係者は「韓国当局者たちは米国側に、数回この話を取り上げている」とし、「彼らはどんな対話の席でも、この話を取り上げる」と述べたというし、またある議会関係者は「駐韓米大使に誰も指名されず、うわさになっている大使の名前さえないという点で、韓国人たちは侮辱された」と捉えていると取材に答えたという。

 この状況に対して、韓国政府関係者は「米国の大使が任命も指名もされていない国は韓国だけではない」と語ったと報じられているが、文在寅大統領は内心穏やかではないはずだ。

 バイデン政権による駐韓大使の指名が遅れについて、韓国は表立って批判はしていないが、米国側から「韓国人たちは侮辱されたと感じているはず」と見られているのは、韓国の独特の外交感覚があるからだ。

 まず韓国人は、頭でなくハートで物事を考える性向がある。だから、米国が地政学的及び国益の見地から対中外交を重視していることを理解していない。米国の対中外交に協力的でない韓国のことはおのずと優先順位が低くなる。それなのに韓国は「米国は韓国を軽視している」と反発したりする。これは韓国の外交が国益に則って行われる、感情が先走ってしまうことの裏返しである。日韓外交がその典型だ。

 米国は、東アジアを舞台に始まった「米中新冷戦」という地政学上の大きな変化に対応し、対中外交を重視した体制を構築している。しかし、韓国はその変化に無頓着と言っていい態度で、その外交的関心は朝鮮半島の問題ばかりで、国際的視野で客観的な分析・評価を行わず、自分の論理に埋没してしまっているのである(韓国の独特な外交感覚については12月22日発売の拙書『さまよえる韓国人』をご参照願いたい)。