恩赦が決まった朴槿恵前大統領(写真:AP/アフロ)

(田中 美蘭:韓国ライター)

 クリスマスイブに電撃的なニュースが飛び込んで来た。友人を国政に介入させた職権乱用や収賄の罪に問われ、韓国憲政史上初めて罷免された朴槿恵(パク・クネ)前大統領が、特別赦免(恩赦)により釈放されることが決定したのだ。

 懲役22年、罰金180億ウォン(日本円で約18億)の判決を受け、収監された朴氏の恩赦。その裏には、様々な事情や思惑が隠されているようだ。

 収監された2017年3月以降、朴氏は持病の腰痛や肩痛をはじめ、心身の不調をたびたび訴えており、現在はソウル市内の病院に入院している。朴氏は手続きを進めた上で、12月31日には保釈される予定だ。

 恩赦に先立ち、文在寅大統領は朴氏の健康状態を考慮したと人道的な配慮だと述べ、「過去よりも未来に向けて国民の統合をはかるべき」というコメントを発表した。

「電撃的」と冒頭で書いたが、予兆のようなものはあった。

 12月に入り、朴氏の健康悪化説がマスコミで報じられるようになったことに加えて、朴氏が獄中からしたためた書簡をまとめた書籍の発刊が発表されたり、朴氏の妹である朴槿令(パク・クリョン)氏が大統領選挙への出馬することを表明したりするなど、朴氏を巡る動きがにわかに慌ただしくなっていたためだ。

 そして、年も押し迫った12月24日、今回の恩赦が発表された。

 韓国第3の都市、大邱(テグ)と周辺の慶尚北道(キョンサンボクド)は朴氏の出身地であり、父親である朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領のお膝元だ。このため、大邱と慶尚北道は保守的で、朴氏親子を盲目的に支持する人が多いことで知られる。

 事実、朴氏の罷免後、大邱郊外の漆谷(チルゴク)という町を訪れた際に、町の食堂に飾られていた朴正煕夫妻の写真を見て驚いたことがある。また、筆者の友人の義父も大邱出身で、義父の部屋にも朴氏親子の写真が飾られているという。

 日本でも、親の代からの政治基盤を子が受け継ぎ、揺るぎない支持を得ている地域がある。韓国の場合、日本よりも世襲議員は少ないが、慶尚北道の朴氏親子に対する支持は特別で、信仰に近いようなものを感じる。