選挙当日は、公共交通機関を無料にして投票所に向かってもらおうとしたが、香港人の心を読み誤った。市民は無料の交通機関を使って、選挙には行かずテーマパークに遊びに行った。また、工展会という年末年始の大型行事が行われている銅鑼湾という地区に向かった。地下鉄銅鑼湾駅はあまりの混雑で出入口の規制を行うなど、“タダ”が低投票率に貢献してしまった。

 筆者の香港人の友人は「結果はわかっているから、行く理由が見当たらない」とシラけた感じで答えてくれた。投票権を持つ香港在住日本人に聞いても「選挙区から2人が当選するけど、3人しか立候補者がいない。支持できる人がいないから行かない」と嘆いた。

 当選したDABの李慧琼主席は低投票率について「市民の判断を尊重する」と答えるにとどまった。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は「高い投票率が政治的悪化につながったり、一部の候補者が国家の安全保障を危険にさらすような力を求めて立候補したりする場合、私たちの承認に値しない。高投票率は社会の分断にもつながる」などと発言。大きな問題ではないことを強調したいようだった。

投票する林鄭行政長官(出所:香港政府新聞処)

香港返還交渉─民主化をめぐる攻防』(国際書院)などを執筆し、香港情勢に詳しい武蔵野大学法学部政治学科の中園和仁教授は、「多くの香港市民は中央によって操作された選挙であることが分かっていた。投票率の大幅な低下は、反対の意味も込めた最低限の抵抗であるとも考えられる」と分析した。

民主派のジレンマ

 今回の選挙では、基本的に民主派議員は立候補を見送ったが、一部は立候補を表明。地区選挙では約10人の非建制派が立候補を認められた。中国政府や香港政府にとっては「中国式民主主義が機能している」というポーズになる。

 ただ、結果は全敗だった。当選できなかった要因の1つは、立候補した時点ですでに親中派である選挙委員の推薦をもらっているため、「本当の民主派ではない」というふうに捉えられてしまったからだ。立候補者は「議会に全く民主派がいないのは良くない」という思いから立候補しているだけに、民意との乖離もあった。もう1つは、親中派は日本の自民党のように様々な団体の組織票を固めており、低投票率ほど有利になる。民主派が圧勝した2019年の区議会選の投票率が71%だったことからもわかるように、高投票率による浮動票の獲得が生命線である。30%台では当選は難しかった。低投票率は、議会に対する不信任を表明できたが、引き換えに当選が難しくなることも意味した。