(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
11月26日、ドイツで9月末に行われた総選挙で第一党となった社会民主党(SPD)と第三党である同盟90/緑の党(B90/Grünen)、第四党の自由民主党(FDP)が組閣に合意、協定書を交わした。各党のシンボルカラー(B90/Grünenが緑、FDPが黄、SPDが赤)から、「信号連立」とも呼ばれる新政権が12月2週にもスタートする。
SPDのオーラフ・ショルツ氏が新首相に就任するのは確実な情勢だ。メルケル第四期政権で副首相と財務相を務めメルケル首相を支えたことから、キリスト教民主・社会同盟(Union)出身ではないにもかかわらず、ショルツ氏はメルケル首相の正統な後継者といった位置付けにある。そのため、メルケル首相の路線が踏襲されるという期待は内外で大きい。
B90/Grünenはアンナレーナ・ベーアボック共同党首を外相に、またロベルト・ハベック共同党首を副首相兼経済相に指名した。また元党首でトルコ系のジェム・オズデミル氏を農相に、党の幹部であるアン・シュピーゲル氏を家族相に、シュテフィ・レムケ氏をそれぞれ環境相に指名した。現在、B90/Grünenはこの閣僚ポストの是非につき、党員による投票を受け付けているところだ。
B90/Grünenの首相候補であったベーアボック共同党首だが、彼女にはその経歴などを巡り、数々の醜聞を晒した過去がある。また、対中強硬派として知られる同氏の閣僚としての手腕は、文字通り未知数だ。来年、ドイツはG7(先進7カ国首脳会議)の議長であり、主要先進国をまとめる重責を勤め上げることができるか、大いに疑問が残る。
FDPからはクリスチャン・リントナー党首が財務相に就任する見通しだ。リントナー党首は「小さな政府」をよしとするタカ派として知られ、健全財政志向が強い。拡張財政を是とするSPDを制し、増税の回避を取り付けたようだ。またB90/Grünenが主張する気候変動対策も、憲法が規定する債務上限の範囲内にとどめると約束させた模様だ。
【参考記事】
◎ベルリンの壁も今は昔、ポーランドが国境に壁を築くのはなぜか(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67650)
◎ドイツ総選挙で中道左派がまさかの「復活」も袋小路に陥る可能性(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67095)