――新聞や雑誌など、従来メディアもインターネットでコンテンツ配信をしていますが、「得たい」と思ってもらうのは難しくなっているように思います。
緒方 マスメディアはまだ「いかに正しく、いかに速く」に重きを置いているところが多いけれども、実際には「いかに好きになってもらうか」が重要性を増しているので、SNSのインフルエンサーの方が強くなりました。好きになってもらう力が強いからです。そこには自分の言葉で表現し、信頼を得てフォロワーなり視聴者を増やしていく仕組みになっている。こうしてコンテンツの大衆化が進むのですが、マスメディアの情報はリコメンド機能やランキングサービスによって、多くの人が「とりあえず、自分の目の前に流れてきたものを読む」ことになって、どの媒体に掲載されたものかわからないし、意識もされていないでしょう。
誰が発信したコンテンツかわからない情報は流れる水のように受け取り、自分から行動して取得するのは好きな人から。その中でより信頼を得るコンテンツとして、音声はドンピシャだったと思います。声には、その人が緊張しているのか集中しているのか、体調の変化までわかるほど情報が含まれています。発信者のそういった情報が入ることによって、受信者は発信者を信頼するようになるのです。
音声メディアに「炎上」が少ない理由
――好きなものに信頼を置くという傾向は、おっしゃるとおりだと思います。一方でYouTube配信やライバーなど映像も人気がありますね。
緒方 おそらく前向きによい情報を集めたい人と、暇つぶしをしたい人、趣味など好きなことにハマっている人などゾーニングがあると思います。一般論として、子どもの頃の方が絵に意識が集中し、成長するほど耳で聞くことが理解できるようになるといわれていて、文字を読むとなるとさらにリテラシーが必要となります。映像情報は娯楽の面が強いでしょうし、音声情報は「人の話を聞く」ことができなければ聴取できませんから、学びたい人、知りたい人向けです。ラジオの「オールナイトニッポン」のように、面白くて楽しい声のコンテンツもありますが、目で見るお客さんとバッティングした時には、映像の方が強いと思います。
――この記事のような文字情報はリーチが難しいですし、炎上することもしばしばですが・・・。
緒方 ネットの文字情報は、適当に斜め読みして、自分なりの解釈をする人が多いように思いますね。何かもの申したい気分の人が、ネタを探しているだけで記事を読みたいわけではないことも多い。発信側はPVのためにアイキャッチを強くしなければならず、最後まで読まれない上に炎上もしてしまうのでしょう。音声コンテンツはPVが少ないと言われますが、最後まで聞かれることが多いので、リーチでは差があると思います。好きな人の話は聞けるけど、嫌いな人の話は聞けないですから。本当に求める人がしっかりと情報やコンテンツを受け取るので、Voicyでは炎上はないですね。
文字を読むことに関しては、高齢者の視力低下や老眼も要因でしょう。人口の30%が65歳以上ですし、現代では若い人も目が疲れていますから目で情報を得るのは厳しい人が増えています。ビジネスパーソンに欠かせない日経新聞はVoicyのチャンネルで28万人のリスナーがいますし、購読にも繋がっているそうです。文字情報は、ビジネスもコンテンツも昭和モデルなので、令和にはプロである記者が書く価値を示しながら求められるコンテンツにすること、取得を簡単にするといった新しいモデルが必要だと思います。