2021年6月、米航空宇宙局(NASA)に勤務する女性のもとに1本の電話が入った。
かけてきたのは退任したばかりのNASAのジム・ブライデンスティーン前長官だった。
電話を受けたのはキャシー・リーダーズ氏。同局で1992年からスペースシャトルの制御システムや国際宇宙ステーション関連の仕事に従事してきた幹部職員だ。
電話の内容は有人宇宙飛行部門のトップに就くようにとの打診だった。
ブライデンスティーン前長官は今後20年間のNASAの将来を見据えて、有人探査ミッションの部局を2分割し、リーダーズ氏にその一つを任せるつもりでいた。
近年になって米国では宇宙への関心が再び高まり、月への帰還ミッションや火星有人探査といったプログラムに大きな期待がかけられている。
その中で有人宇宙飛行部門のトップへの就任というのは、NASAの中でも最重要と呼んでさし支えない部門を統括することを意味していた。
だがリーダーズ氏は同長官からの電話を受けた時、即答しなかった。「(決断するまでに)もう少し時間をください」と述べている。
というのも、依頼を受けた場合、NASAで有人宇宙飛行計画の指揮をとる初めての女性になるばかりか、責任の重さを憂慮していたからだ。
それでも、しばらくしてリーダーズ氏は前長官からの依頼を受け入れた。米ジャーナリストのチャベリ・カラザーナ氏が語っている。