温暖化で崩落しているグリーンランドの氷河(写真:picture alliance/アフロ)

 環境問題やESGに対する日本の企業や政府の対応は、他の先進国と比べて出遅れており、国際的に投資を呼び込むことができないという負の連鎖を招いている。世界では環境問題をめぐって何が語られ、どのような目標が設定されているのか。また、日本がどういった点で遅れをとっているのか。『超入門カーボンニュートラル』を上梓した夫馬賢治氏(株式会社ニューラル代表取締役CEO)に話を聞いた。(聞き手:長野 光、シード・プランニング研究員)

※記事の最後に夫馬賢治氏の動画インタビューが掲載されていますので是非ご覧下さい。

──「フランスにある世界最大手保険会社アクサのCEO(最高経営責任者)は、2015年に『気温が2℃上昇しても、まだ保険はかけられるかもしれない。でも、4℃上昇したら保険はかけられなくなるだろう』と述べた」と本書の中で記されています。

夫馬賢治さん(以下、夫馬):これは、気温上昇による自然災害の被害が頻発することが予測されるため、保険会社が加入者に支払う保険金が巨額になり、損害保険のビジネスモデルそのものが成立しなくなる、という意味です。

──損害保険がかけられなくなるとどうなってしまうのでしょうか。

夫馬:損害保険がかけられないということは、建物や車などに被害があっても補償はないということですから、普通の経営者の感覚だと、一切の設備投資ができなくなります。現在の経済活動はすべて損害保険の仕組みの上に成り立っているので、社会経済活動が崩壊してしまいます。

──この「4℃上昇したら」というのは、いつ頃の想定なのでしょうか。

夫馬:2013~14年時点で、このまま対策を講じなければ、2100年までの気温上昇の見通しが4.1℃から4.8℃となると発表されました。また、最新の第6次評価報告書では、最悪の場合、2100年には5.7℃上昇すると記されました。

【参考資料】
◎IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/index.html
◎IPCC第6次評価報告書:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/index.html

──国際決済銀行(BIS)が、2020年1月に「グリーン・スワン(緑の白鳥)」というレポートを出しました。BISが金融機関であるにも関わらず、気候変動が巨大な金融危機を引き起こすリスクがあるとして、気候変動による金融危機に言及したことの意味について、本書の中で説明されています。

【参考資料】
◎The green swan:Central banking and financial stability in the age of climate change:https://www.bis.org/publ/othp31.htm

夫馬:これは世界の銀行に対する、気候変動政策を進めるような投融資政策を打たなければならないというメッセージです。

 これまで金融当局は、気候変動のような環境政策については、物価や金融資産の安定性とは無関係なので考慮に入れるべきではないという考え方でした。そのBISが、気候変動は巨大な金融危機を招く大きなリスクであり、あらゆる手段を使って気候変動対策を進める主体になるべきだと発表したことはとても重要な出来事だと言えます。