フィリピンのドゥテルテ大統領が10月2日、突然政界を引退することを表明した。この表明で2022年5月に行われる大統領選挙に最大与党「PDPラバン」からの指名を受けて出馬表明していた副大統領候補としての立場も事実上撤回されたこととなり、今後の大統領選の構図に様々な影響を与えるのは必至だ。
フィリピンのマスコミが2日から3日にかけて一斉に大きく伝えた「ドゥテルテ大統領の政界引退表明」のニュースは各方面に衝撃を与える一方で、「当然の結果」「正しい選択」との声も大きい。
というのも、このところドゥテルテ大統領には強い批判が浴びせられていた。フィリピンでは憲法により大統領の任期は一期までと規定されている。そこで次期大統領選に出馬できないドゥテルテ氏は、大統領として再選を目指すのではなく、禁止規定のない副大統領を目指すという、法の隙間を突いた「奇策」で権力の中枢に留まろうと画策していた。
ところが権力を握り続けようというその策に対して、「憲法違反の疑いがある」との批判が一斉に沸き上がった。世論調査でも否定的な意見が多く、ドゥテルテ大統領は厳しい局面にさらされていたのだ。
権力にしがみ付きたかった事情
ドゥテルテ大統領には、どうしても権力を手放したくない事情があった。
2016年の大統領就任以来、ドゥテルテ氏が特に力を入れてきた政策が麻薬犯罪対策だった。その取り締まり方は強硬なものだった。捜査現場で警察官による司法手続きに従わない容疑者の射殺、いわゆる「超法規的殺人」が横行したのだ。そして、それを黙認、あるいは追認したとして、ドゥテルテ大統領に対する人権団体や国際機関、欧米から厳しい非難が沸き起こっているのだ。
「国際刑事裁判所(ICC=本部オランダ・ハーグ)」も9月15日にはフィリピン政府の麻薬犯罪捜査が人権侵害、人道に対する罪の疑いがあるとして本格的捜査に着手する方針を明らかにするなど、ドゥテルテ大統領への風当たりは強くなっていた。そうした批判や司法の訴追を回避するためにとドゥテルテ大統領が考え出したのが副大統領として権力の中枢に留まることであり、同時に政権内で政治的影響力を残すという目論見だったのだ。