ただ、法案発議文によると、「同法案の施行日は23年1月1日から」で、文在寅政権以降に先送りしている。一方、裁判所で継続中の裁判に対しても適用されると規定しており、一審で却下判定を受けた李容洙さんらが提起する今後の裁判にも適用される可能性が高い。

尹美香議員、「米軍慰安婦」真相究明法案を提出

 一方、李容洙さんと敵同士になってしまった尹美香議員は、共に民主党議員らとともに、在韓米軍を相手に売春を業としてきた風俗女性ら(米軍慰安婦)の人権侵害に対する真相究明や被害者支援策を整える法案を作成し、昨年12月に国会に提出した(「米軍慰安婦問題に対する真相究明及び被害者支援等に関する法律案」)。

 韓国内では、在韓米軍を対象とする風俗女性の募集や管理などに韓国政府が介入したという疑惑が女性団体を中心に提起されており、韓国政府には補償と真相究明を、米国政府には謝罪を求めている。2014年には米軍慰安婦らが韓国政府を相手取った損害賠償訴訟が始まり、2018年には一部原告勝訴の判決が下されたこともあったが、韓国政府は現在も国家の介入を公式に認めていない。

 しかし、尹美香議員をはじめとする与党議員らは、米軍慰安婦問題を「既成事実」化し、韓国政府に被害補償を義務付ける法案を発議したのだ。法案の具体的な内容は、韓国政府の女性家族部長官の下に「米軍慰安婦問題真相究明委員会」を設置し、過去(1945年~2004年9月)、国の安全保障を名分に人権被害を受けた米軍基地村の風俗女性やその遺族らに対する真相を調査し、被害女性及びその遺族が安定した生活を維持できる医療支援及び生活費支援、住宅支援などが行われるよう法的根拠を設けることを骨子としている。

 一方で、国や地方自治体には、被害者などに関する慰労・追慕や歴史館・資料館の建設などの記念事業の施行を義務付けていて、被害者などで構成された団体または米軍慰安婦問題研究団体などに対し、政府が必要経費を支援するように定めている。

国会に「米軍慰安婦問題」の真相究明に関する法案を提出した尹美香議員。写真は2020年5月のもの(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 同法が無事国会で可決されれば、尹美香議員や彼女が理事長を務めていた正義連(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)は、日本軍慰安婦問題以上に、この新しい慰安婦運動に邁進すると見られる。