(篠原 信:農業研究者)
まだガラケー(スマートフォンが普及する前のガラパゴス携帯と呼ばれたもの)の時代のことだが、母の機種変更手続きに付き合ったことがある。
母は耳が遠いので、着信音がよく聞こえるものが欲しい、とショップの店員に頼んで出してもらったのは、高齢者向けガラケー。しかしどの着信音を試しても、高音の電子音で構成された同様の音色のもので、母にはまったくといってよいほど聞こえなかった。高齢者向けでない機種も試してみたが、全滅。どれもこれも、高音の電子音ばかり。
この状況はスマートフォンに乗り換えても変わらなかった。スマートフォンならカスタマイズできるから、ガラケーほど苦労はしないだろう、と思ったら、登録されている着信音はどれもこれも、ガラケー時代と大差ない高音の電子音で構成されたものばかり。母には聞こえなかった。
高齢者には高音過ぎる電子音
こうした問題は携帯やスマートフォンに限らない。
電子レンジの調理終了を告げる電子音も、ガスコンロの異常を告げる電子音も、冷蔵庫も、洗濯機も、体温計も、どれもこれも似たような高音の電子音。これらは、耳の遠い母には全然聞こえない。
この問題、母だけではない。高齢が理由で耳が遠くなった人は、体温計がピピっと鳴った音が聞こえず、いつまでたっても脇に挟んでいることがよくある。もういくらなんでも、と思って取り出してみたら、放置しすぎて電源が切れていたりする。