(文:矢野耕平)
長引くコロナ禍でも、首都圏での中学受験熱は勢いが削がれる気配はない。ヒートアップするうちに、いつしか家庭が進学塾に、進学塾が家庭になってしまっていると塾講師歴27年の筆者は警鐘を鳴らす。進学塾と家庭の役割が入れ替わるとは、どういうことなのだろうか。
少子化でも激化する首都圏の入試
令和時代に入って、首都圏の中学受験がますます過熱している。端的に言えば、中学入試の受験者数が年々増えているのだ。
少子化が叫ばれてはいるが、「中学受験熱」の高い都心部にしぼって見るならば、児童数は増加の一途を辿っているし、近年の大学入試改革の混乱ぶりを目の当たりにした小学生保護者がわが子の「学校歴」の道筋を早期に決めたいという動きが加速している。さらに、昨年のコロナ禍の学校休校期間中、私学の大半がオンラインを活用した教育を充実させたこと……。これらが中学受験の盛況を演出する一因となったのは間違いのないところだろう。
わたしは中学受験専門塾の経営者であるとともに、子どもたちの学習指導に日々携わっている塾講師でもある。この世界に身を置いて27年目となるが、昨今の中学入試の大激戦ぶりは目を見張るほどである。なお、第1志望校の合格を射止めることのできる受験生は3~4人に1人と言われている。
だから、だろう。書店に足を運ぶと小学生保護者を対象にした中学受験関連書籍が平積みされているし、各種オンラインメディアでは中学受験が主要なトピックのひとつになっている。SNSの世界でも中学受験の話題に溢れていて、たとえば、Twitterではわが子の受験年度を冠した保護者のアカウントが数多く存在し、保護者間での情報交換などが日々活発に取り交わされている。
何かがブームになると、それに関する情報が氾濫するものだ。中学受験にまつわるさまざまな噂話がSNS上や職場、わが子の小学校のママ友たちとの間などで頻繁に飛び交うようになると、保護者たちは情報の精度の高低を判断できぬまま、その洪水に飲み込まれていく。
このような事態が引き起こす中学受験の諸問題はさまざまあるが、本記事ではそのうちのひとつ、「『進学塾化』する家庭」について取り上げよう。
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