来月に迫ったオリンピックの開催について議論が沸騰しているが、仮に開催するならばどのような施策が必要なのか──医療負荷の観点から讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が掘り下げる。連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第54回。

「(今のようなパンデミックでやるのは)普通でない」

「やるなら強い覚悟でやってもらう必要がある」

 新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の国会発言が波紋を呼んでいます。個人的には至極まっとうな発言だと思いますが、オリンピック開催の是非についてはさまざまな考え方があるのも事実です。

 その論点のひとつに医療負荷があります。オリンピックを開催すれば、新型コロナウイルス感染症がなくても医療負荷が増します。コロナ下であればなおさらです。しかし、それがどれほどの負荷なのか、丁寧に説明する報道はほとんど目にしません。漠然と、「医療負荷が増す」、「医療従事者は忙しくてオリンピックどころではない」というのではなく、どの医療従事者がどのように忙しくなるのか――大事なのは客観的かつ丁寧に見ることです。

2つの側面から見るオリンピックの医療負荷

 オリンピックによってどのような医療負荷が生じるのかを考える際には、2つの側面から見なければなりません。1つは、どういう疾患が対象となるかです。たとえば選手の捻挫などの怪我、あるいは風邪などの体調不良。このような軽度の疾患がある一方で、すぐに対応しないと命に関わる可能性がある救急疾患も外科・内科含めてあります。なお、新型コロナ感染症は一分一秒を争う救急疾患には該当せず、発症するタイミングでは軽度の疾患にカテゴライズされます。