オフショアを使った税金逃れの手口がますます巧妙化している

 読者の方は漠然と気づいているはずである。多くの国民が脱税をしていることを――。

 ただその不正行為が暴かれない限り、実態は表には出てこない。

高額所得者の脱税手口

 米東部マサチューセッツ州ケンブリッジ市にある全米最大の経済研究組織「全米経済研究所(NBER)」はこのほど、「高額所得者の脱税:手口と証拠」という長文(77ページ)の論文を発表し、内外から注目を集めている。

 全米経済研究所は1920年に創設された経済問題に特化したシンクタンクで、ノーベル経済学賞の受賞者35人のうち20人が同研究所の関係者であり影響力は大きい。

 最初に、論文の結論から端的に述べさせていただききたい。

 内国歳入庁(IRS:日本の国税庁)のエコノミストと大学教授が複数年に及ぶ調査を行った結果、米富裕層は所得の20%以上を申告していないことが判明した。

 そればかりか、超富裕層と言われるトップ1%の人たちが脱税している額は、米国政府が被った脱税被害総額の3分の1に及ぶことも分かった。

 より多くの稼ぎがあれば税額も大きくなり、「そんなに払いたくない」という人間の心理は容易に想像がつくが、脱税額は巨大である。

 連邦政府が「取り逃がした」金額は、同論文によると年間1750億ドル(約19兆円)に達している。

 これまでも米国の富裕層による脱税事件はたびたびメディアに取り上げられてきた。だが多くは単発の事件として扱われ、今回のように複数年にわたって全体を俯瞰できる論文はこれまでほとんどなかった。