ブリンケン国務長官、オースティン国防長官と会談した文在寅大統領(写真:代表撮影/AP/アフロ)

(金 愛:フリージャーナリスト)

 最近、韓国の政界で話題の人物といえば尹錫烈(ユン・ソクヨル)前検察総長だろう。尹前総長は文在寅大統領の国政支持率が就任以来最低の35%水準に落ち、本格的なレイムダックに陥ったという分析が発表される中、次期大統領選候補者として関心が高まっている。もちろん、文在寅政権の各種不正や腐敗行為を審判する適任者という期待がある。

 検察総長退任後の23日、尹錫烈氏は延世大学哲学科の金亨錫(キム・ヒョンソク)名誉教授(101)に、「政治をしてもいいか」と尋ねて見解を求めたと報じられた。大統領選に出馬する意志を明確にしたと見られている。

朴槿恵弾劾の功臣が保守野党の希望に

 次期大統領選挙を約1年後の22年3月9日に控えた韓国で、尹錫烈氏は一番人気となっている。3月5日、韓国社会世論研究所(KSOI)がTBSの依頼で全国満18歳以上の123人(信頼水準95%、標本誤差±3.1%)を対象に行った調査で、尹錫烈氏は32.4%の支持を受け1位となった。2位は与党の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事で24.1%、同じく与党の「共に民主党」の李洛淵(イ・ナギョン)代表が14.1%で続いている。

 尹錫烈氏は2020年12月、文在寅政権の“検察改革”に反対し、当時の秋美愛(チュ・ミエ)法務長官から職務停止処分を受けて以降、支持率が上昇している。今月3日に公式に辞任した際、「韓国社会の正義と常識を守り、自由民主主義と国民を保護する」「法治主義を守るために憲法が与えた最後の責務履行」をすると述べ、大統領選に挑戦する意向を示唆した。

 言葉を選ばずにいえば、文在寅政権の“番犬”だった尹錫烈氏が文在寅政権の偽善を告発する“猟犬”になったのだ。文在寅政権に絶望している韓国人や保守野党は尹錫烈氏に希望を見いだしている。

 尹錫烈氏を検察総長に起用した共に民主党の関係者は、尹氏の「政界進出」に強く反発している。中でも与党の実力者らが「尹錫烈の政界進出」を強く批判する。

 朴槿恵前政権末期から国会議長を務めた丁世均(チョン・セギュン)首相は3月10日、「検察総長の職を投げ捨てる政治進出は、検察の不幸であり、国の不幸だ」と遺憾の意を表した。共に民主党の李洛淵(イ・ナギョン)代表も5日、「公職者として常識的ではない突拍子もない行動だ」と批判している。さらに、盧英敏(ノ・ヨンミン)元大統領秘書室長は24日に、「検察の政治的中立は宿命」であり、「尹錫烈は政界入りしないこと」と述べた。与党の実力者たちは、なぜ朴槿恵前大統領を監獄に入れた一等功臣の政界進出に敏感な反応を見せるのだろうか。