(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
米国の国営放送「ボイス・オブ・アメリカ」が3月20日に報じたところによると、アメリカ国務省が近々刊行する「2020年国別人権報告書」の中で、韓国について「対北朝鮮ビラ禁止法の制定に伴う表現の自由」問題に加え、曺国(チョ・グク)元法務部長官の腐敗事例、故・朴元淳(パク・ウォンスン)前ソウル市長のセクハラ、尹美香(ユン・ミヒャン)共に民主党国会議員(前正義連理事長)の寄付金着服や横領などを指摘するという。
人権弁護士出身を自認する文在寅大統領は、国内で「人権重視」を叫んできているが、同盟国の米国より、韓国国内の人権問題、北朝鮮金正恩政権による人民弾圧・人権無視を黙認する文政権の姿勢を公然と批判されることになり、その道徳性に大きな打撃となることは避けられまい。
韓国政府は「報告書はまだ正式には発行されていない」としてコメントを差し控えているが、「記載内容を改めるよう、米国国務省に内々働きかけているのではないか」との憶測も出ている。
人権と民主主義を前面に出すバイデン外交
トランプ政権時代の米国は、“民主主義と人権価値観外交”にはさほど関心を示さなかった。しかし、バイデン政権は、日本などの自由主義陣営と連携・共同して、唯一の「戦略的競争相手」である中国の「力こそが正義」との国家観を批判し、「ルールに基づく国際秩序」の構築を目指している。その一環として「新疆ウイグル自治区、香港、台湾、米国へのサイバー攻撃」など、人権弾圧をはじめとする中国の行動を強く非難している。
アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官のアジア歴訪で示された米国のメッセージもこの流れに沿ったものであり、「同盟の強化と民主主義、人権、法治などの『共通の価値』を基盤とした自由で開かれたインド太平洋地域を構築するというものである。
「人権と民主主義を重視する米国の外交政策」は、中国を選別的に扱うというのではなく、「いかなる国であれ、人権を蹂躙している状況があれば、声を上げる」ということになる。
つまりそれは、北朝鮮に対して完全な非核化を求める交渉をすると同時に、人権問題でも圧力を行使していくことにもなる。