バグダッド北部のシーア派寺院イマーム・ムーサ・カディム(写真:AP/アフロ)

(山中 俊之:神戸情報大学院大学教授/国際教養作家)

 3月、フランチェスコ教皇がイラクを訪問した。「キリスト教カトリックのトップが、なぜイスラム教徒が多いイラクを訪問するのだろう」と感じた人も多かったかもしれない。

 しかし、イスラム教のスンナ派とシーア派の抗争が絶えないイラクにはキリスト教徒も居住しており、宗教間の衝突や紛争が絶えない。また、後述するようにユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三大一神教において重要な役割を果たしたアブラハムの出身地でもある。

 イラクは、多くの宗教・宗派が生まれ、交錯してきた宗教の集積回路のような場所なのだ。このような地に教皇が訪問することにより、宗教の融和姿勢を世界に示すことは大変に意義があると考える。

 イラクこそが世界の宗教の融和を象徴する場所だ考える理由をお話ししたい。

 第一に、旧約聖書におけるユダヤ教徒とキリスト教徒、イスラム教徒の共通の祖先であるとされるアブラハムの出生地とされるウルがあることだ。

 良く知られる通り、天地創造などが書かれた「旧約聖書」の「創世記」はユダヤ教、キリスト教、イスラム教において共有されている(なお、新約聖書を認めないユダヤ教では「旧約」とは言わず単に聖書という)。

 その「創世記」に登場する最重要人物の1人アブラハムは、3つの一神教につながる祖先として大変に尊敬されている存在である。

 米リンカーン大統領のファーストネーム「Abraham」の由来であることからも分かるように、三大一神教の信徒の名前として活用されている。ちなみに、アラビア語ではイブラヒームとなり、これの名前もイスラム教徒では大変に多い名前だ。

 イスラム教原理主義によるキリスト教国でのテロ行為やユダヤ教徒とイスラム教徒の紛争であるパレスチナ問題など、現代政治を見れば、三大一神教の信徒の仲が悪いように見えてしまう。しかし、教皇のウル訪問は、3つの一神教が同根であることを世界に思い起こさせた。

イラクを訪問したフランチェスコ教皇(写真:Abaca/アフロ)