高濃度汚染地区

 飯舘村は、村造りに独自の理念を持った住みやすい村という印象だ。洒落たデザインの老人ホーム、木造りの小学校、役場もモダンな雰囲気だった。その役場で一人の男性に声をかけられた。

「報道の人だったら俺の住む長泥地区を見てくれないか」

 鴫原良友さん(61)との出会いだった。この時、鴫原さんは長泥行政区の区長を務めていた。今回の放射能汚染で、長泥地区は飯舘村の中でもとりわけ高い数値が検出されていた。そのことを知ってか知らずか、長泥地区にやってくる取材陣もなく、放射能汚染の実態が世の中に知られていないのだという。

飯舘村役場にほど近い飯樋小学校の校庭(写真:橋本 昇)
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 鴫原さんに付いて長泥地区に行った。役場から10キロほど浪江方面へ行き、峠を下った。74世帯、276人が暮らす長泥地区は、商店が一軒だけという山間の集落だった。田んぼを覆った雪が、時折起こるつむじ風に巻き上げられ、キラキラと眩しく光る。冷たく透き通った空気。村はまだ冬の柔らかな光の中で眠っているように見えた。

「なんでも、ここは飯舘の中で汚染がいちばんひどいらしい。みんな家に閉じこもって出てこないよ」

 鴫原さんの家でも、二人のお孫さんが炬燵から首だけ出してゲームに熱中していた。

「2、3日前に国際原子力の連中が来て、線量を計って土や草を持って帰ったんだ。それから毎日人が来て、計った数値を掲示板に張り出していく」

 家の裏の雨どい付近や杉の木の枝から、とんでもなく高い数値が出ているという。数値を聞いても実感できないが、不安は募る。

長泥地区の区長・鴫原さん一家(写真:橋本 昇)
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